2022 Fiscal Year Annual Research Report
近世後期の日本における風景観についての歴史地理学的研究
Project/Area Number |
22J40112
|
Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kyoto Prefectural University |
Principal Investigator |
阿部 美香 京都府立大学, 文学部, 特別研究員(RPD)
|
Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
|
Keywords | 近世後期 / 名所案内記 / 出版物 / 浮世絵版画 / 大坂 / 風景 |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度は、申請者がこれまで取り組んできた江戸との比較が可能な大都市大坂に関して、近世末期に出版された大坂に関する名所案内記『浪華の賑ひ』および『淀川両岸一覧』を検討対象史料とした。当該対象史料よりもおよそ50年〜60年前に刊行された名所案内記『摂津名所図会』『河内名所図会』『都名所図会』『拾遺都名所図会』と対象史料との網羅的な文章・挿絵比較から、当該史料に認められる特徴と作者の風景観を見出した。 具体的には、『浪華の賑ひ』と『淀川両岸一覧』における名所の説明,および風景描写を検討すると,まず以下のような描出対象への着眼点が挙げられた。1、種々の店が連なり繁華である 2、市・寺社参詣・季節の花々の賞美のため人々が集う 3、眺望が良い 4、名物・特有 の事物がある 5、人・物の往来の起点である 6、1や5の様子そのものが美しい また鐘成著述の二作品と,描写地が重なる他の名所 案内記を,同じ場所の叙述に関して比較検討し,また他の案内記にはなく上記二作品のみにある項目の 文章を検討した。その結果,船客や舟運について, 日常の中で見られる具体的な様子の描写や,賑わい・繁華に関する具体・強調表現,新名所への賞美,大坂という都市でこそ持つ機能への特筆等が鐘 成の文章には特徴的に認められた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定通り、近世後期大坂の名所案内記として代表的な作品を取り上げ、網羅的な文章・挿絵比較を行ない、その研究成果を学会で発表することができたため。
|
Strategy for Future Research Activity |
2023年度は、近代初期の内容も盛り込まれ、近世から近代への移行期の作品と捉えられる『浪花百景之内』を分析対象とし、近世末期の作品における特徴や作者の風景観との連続性や差異を検討する。また、絵画作品として『浪花百景』も分析対象とし、版本との共通性や相違点を考察することで、近世後期から近代初期の大坂に関する作品にあらわれた風景観を明らかにする。文章では、何に着目してその名所を評価しているかを全項目に関して調査し,挿絵では描写対象物を整理した後,明治や大正期の地形図と比較して現実との照合を行う。また江戸期の古地図も利用して、分析史料の絵では何を取捨選択し、何を強調して描いているか、江戸期からの連続性も含めて検討を行う。 2024年度は、大都市に対して地方の事例として長野と東北を取り上げ、『木曽路名所図会』及び『善光寺道名所図会』を用いて名所を評価する際の着目点や描写風景の考察を行う。また長野と東北地方に関して多くの風景描写がある菅江真澄の紀行文も分析対象とし、紀行文における風景描写を挿絵も含め検討し,風景の中で着目している点を整理する。さらに古地図と地形図を用いて、菅江の風景観を当時の空間の中で検討する。
|