2022 Fiscal Year Annual Research Report
多重イオン制御照射によるガラス固体内非平衡反応を利用した機能性ナノ構造体の合成
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22J15541
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Osaka Metropolitan University |
Principal Investigator |
山田 智子 大阪公立大学, 大学院工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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Keywords | ナノ粒子 / イオン注入 / アモルファスガラス |
Outline of Annual Research Achievements |
熱処理を行わず,ナノ構造体が合成することにより非平衡な状態のナノ構造体を固体内で凍結した状態で保存することができる.また,これまでイオン照射による固体内ナノ構造体の合金化について,一般的には照射パラメータ(照射イオン種,マトリクスの種類,照射量,線量率,照射エネルギー)を組み合わせることで行われてきた.しかし,イオン照射だけで生成されるナノ構造体のサイズは,本研究でこれまでに扱っているAgとNiで大きく異なる.1回目の照射で生成されたナノ構造体のサイズの違いが2回目の照射の際に何らかの影響を与えるのではないかと考えた.熱処理を行う本来の合成手法では,照射順序による影響はあまり考えられないが,本研究では熱処理を行わないため,新たなパラメータとして照射順序を提案し,実験を行なった.二種類の金属イオンの照射順序の入れ替えによる複合ナノ構造体の特性および構造の変化について調べた例はまだなく,本研究は世界で類を見ない研究である.その結果,生成されたナノ構造体の特性および構造の変化に有効なことを発見した.これにより,照射によるナノ構造体の合金化では照射順序が生成するナノ構造体の特性や構造の制御に繋がると考えている. また,Agナノ構造体を合成した後に,高エネルギーのAuイオンの追加照射を行うことで,ナノ構造体が変形し,それに伴い光学特性が変化することを発見した.照射量によってもナノ構造体の大きさを制御することができ,光学特性の制御に繋がることがわかっている.現在は,ナノ構造体を合成した後,斜めから高エネルギーの重イオンを照射し,その回数によって光学特性の制御を行っている.これは変形したナノ構造体のアスペクト比および向きを変化させることで光の入射方向による光吸収が変化すると考えられるからである.また,複数回異なる方向から照射を行うことでもナノ構造体の光学特性が変化することを確認している.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
雑誌論文へ掲載するためのデータが,当初予定していたデータだけでなく追加データの取得により判断する必要が出てきたために論文発表において当初の予定より少し遅れが出ている.
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Strategy for Future Research Activity |
(i) 固体ガラスへの複合イオン照射:イオン照射実験は,量子応用研究開発機構の高崎量子応用研究所内のイオン照射研究施設 にて行う.ターゲット材であるアモルファスガラス内でイオンの堆積深さが重なるように照射エネルギーを計算したAg,Niイオンを照射し,ガラス内にナノ構造体を合成する.さらに三元系の複合ナノ構造体の合成としてAlイオンも照射する.(ii) 固体内生成物の微細構造および特性評価:イオン照射によって生成したナノ粒子を以下の手法と特性評価を行う.室温での熱平衡下では合金にならない系であるAgとNiを二重イオン照射することにより,合金化が起こり光学特性や構造に変化が現れることがわかった.現在,電子顕微鏡による観察およびEDS分析による複合状態の原子結合などの微細構造の特定と光学特性との関連性についての検討を行っており,今後も進めていく.また,照射順序による複合状態の変化に関しても同様の実験を行い,照射順序によるナノ構造体への影響についての解明を行う.また,Alを追加照射した三元系のナノ粒子の微細構造についても今後詳しく解明していく.ナノ構造体の特異な性質はそのサイズ因子に加え,合金複合化や特異な相状態などのバルクでは見られないようなナノサイズでの状態や形状を有する非平衡構造体に機能性が多く見出されている.このようなナノレベルでの合金複合化と相状態の制御によって新しい機能性ナノ材料創成の可能性が開けるが,化学的な液相合成では安定して同一のものを合成できる一方で,特に非平衡状態の複合合成の制御は難しく新しいナノ材料探索には限界がある.本研究ではこれを打破するための一つの手法としてイオン照射を適用するが,この手法でのナノ構造体合成において目標とする複合体や非平衡状態の構造体制御においては不明な点が多く,新規構造体合成制御のための学術的知見と基礎過程の解明が必要不可欠である.
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