2023 Fiscal Year Research-status Report
Order of Mongolian Nomadic Society in the Early 18th to 20th Century: Norms of Social Status and Gender in Daily Life
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22KJ2636
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Research Institution | Tohoku Gakuin University |
Principal Investigator |
堀内 香里 東北学院大学, 文学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2023-03-08 – 2025-03-31
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Keywords | モンゴル史 / 近世内陸アジア史 / ジェンダー史 / 家族史 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、近世内陸アジア遊牧民社会における「家族」の特質を考察しつつ、ジェンダー規範を検討するものである。具体的には、同時代のモンゴル遊牧民社会を事例に、彼らの日常的な実践に注目し、彼らが直面した諸問題を如何に調整し解決していたのかを分析することを通して、ジェンダーと身分に基づいて各人に求められた規範、また家族の機能や特質を考察する。 当該年度は養子縁組、介護・看病、相続の事例を分析した。そこから示唆されたのは、近世モンゴル遊牧民社会は、同時代の江戸や漢(中国)と比すると「家」の繋がりは弱く、一方で個人的なそれはより強かったことである。例えば、介護・看病や養子縁組では血縁の近さよりも世話したり扶養したりする能力の高さで関係が作られ、それが公式にも認められた。相続においてさえ、血縁関係の遠近によらず個人的な「恩」のある者に財産が移管される事例が多々見えた。このように状況に応じて適宜人間関係を構築して日常を過ごしていた。また、平民においては殆ど家族関係が見えず、基本的に貴族との主従関係を軸にして社会関係が規定されていた。なお、男女の性差でいえば、寡婦や未婚の母らの意向が他の男性のそれよりも現場でもまた法例上でも重んじられる事例が少なくなく、特定の領域における女性の発言権の大きさが示唆された。 また、研究活動については、内陸アジア研究の世界的中心の一つでもあるケンブリッジ大学社会人類学部に半年間所属し、当該地域の国家及び社会構造の変遷、そこにおける「親族集団」に関するこれまでの人類学的研究を調査した。これにより、当該社会の家族について、近世という時代の特徴を相対化しつつ、時代的変容を考察することが可能となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当該年度の後半を英国において、社会人類学という異なる分野の研究方法や内陸アジアを対象とする当該分野の研究蓄積について調査することにあてた。そのために自身の研究成果の公表を十分に行なうことができなかった。とはいえ、研究活動は進めてきたので、次年度はこれまでの研究の成果を国内外に公表する予定である。 また、当初はロンドン大学東洋アフリカ研究学院でも史料調査を行なう予定であったが、円安と英国の物価高によって実現できなかった。すなわち、これまでのモンゴル公文書に依拠した研究に、国外の宣教師らによって作成された文書の分析を取り入れることで、近世モンゴル遊牧民の生活を多面的に理解することを目指したが、それが達成できなかった。次年度のできるだけ早い段階で、この調査を行なう予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度になるため、まずはこれまでの研究成果を論攷にして公表する。後半では、近世内陸アジア遊牧民社会における「家族」の特質とジェンダー秩序について、これまでに明らかになった範囲で結論を提示し、同時に問題を提起する。 また、当該年度に実現できなかった、ロンドン大学東洋アフリカ研究学院での調査を次年度の早い段階で行い、公文書しかソースのなかった本研究に、当時モンゴル人の生活を理解しようとした宣教師らが作成した史料を使用することで、より多面的に当時のモンゴル遊牧民らの生活を考察することを目指す。
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