2022 Fiscal Year Annual Research Report
ニーチェ哲学における「権力への意志」説と道徳批判に関する研究
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21J00618
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kyorin University |
Research Fellow |
谷山 弘太 杏林大学, 外国語学部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | ニーチェ / 権力への意志 / パースペクティヴィズム / 真理基準 / 原理の節約 / 価値の問題 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、ニーチェの権力への意志説の認識論である「パースペクティヴィズム」について考察した。 パースペクティヴィズムとは、「真理は存在せず、あらゆる認識は解釈に過ぎない」と主張する立場であるが、それには主に二つの問題がある。第一に、ニーチェは認識論的にはパースペクティヴィズムを採りながら、その一方で権力への意志の存在論を真理として主張しおり、ここには矛盾があるように思われる。第二に、パースペクティヴィズムの主張をそれ自身に適用すれば、パースペクティヴィズムの主張自体も真理ではなく解釈に過ぎなくなり、いわゆる自己言及性パラドクスが生じることになる。こうした問題に対して多くの先行研究によって、ニーチェは伝統的な真理基準である対応説を放棄していることが指摘されてきたが、対応説に代わってニーチェが新たに採用する真理基準の内実については解釈が分かれており、意見の一致を見ていないのが現状である。 そこで本研究は、現代の科学哲学の知見を応用しつつ、ニーチェ独自の真理基準について検討した。その結果、ニーチェは妥当な科学的仮説が満たすべき基準として「原理の節約」を採用していることが明らかになった。権力への意志説及びパースペクティヴィズムは差し当たり仮説(解釈)として提示されるが、余分な原理を排除する原理の節約という基準を満たす点で他の仮説よりも優れていると言える。ただし、どの原理が余分であるかを判断するには価値の問題が関わってくる。ニーチェは道徳的価値を棄却することで、それを確保するために要請される形而上学的原理を余分と見なすのである。これによって、権力への意志説の認識論及び存在論には価値の問題が不可分な仕方で関わっていることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、権力への意志説に含まれる認識論、存在論、道徳批判という三つの契機を包括的に解釈することを目標としているが、本年度はその内の認識論からアプローチすることで上の三つの契機の密接な関係性について光を当てることができた。体調不良のため一時研究を中断した時期もあったが、研究はおおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の成果を踏まえ、今後本研究は権力への意志説の存在論について検討していく。そのためには、ニーチェの先駆者であり、かつ最大の論敵でもあったショーペンハウアーの意志形而上学との対決が必須となる。先行研究における両者の思想の比較検討は主に倫理学的側面に集中しており、存在論という根本的なレベルにおいてはほとんど行われていない。それどころか、ニーチェの権力への意志の存在論もショーペンハウアーの意志の存在論も、独断的形而上学として、ほとんど顧みられていないのが現状である。だが、カントの超越論哲学の正当な後継者を自認するショーペンハウアーが自身の存在論を単純に独断的形而上学として主張しているとは考え難い。そこで本研究は、ショーペンハウアーの意志の存在論をカントの超越論哲学と矛盾しない仕方で再解釈することを目指す。そこで期待される成果を応用することで、ニーチェの権力への意志の存在論にも新たな光を当てることができると期待される。
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Research Products
(5 results)