2021 Fiscal Year Annual Research Report
変形を伴う塗膜における経年劣化のビジュアルシミュレーション
Project/Area Number |
21J21729
|
Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
石飛 晶啓 慶應義塾大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
|
Keywords | モデリング / ウェザリング / ビジュアルシミュレーション |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,塗装された金属物体の劣化表現を目的とし,劣化度に応じたウェザリングが施された仮想的なオブジェクトを配置するAR(拡張現実)システムの実現を目標とする.ARシステムの実現には大きく分けて,映像から劣化度を推定するCV (コンピュータビジョン),仮想的なオブジェクトを生成するCG(コンピュータグラフィックス),そしてそれを映像に重畳して表示するARの三分野の技術を応用する必要がある,初年度にあたる2021年度は,CG部分を重点的に取り組んだ.塗膜における剥離現象に最適なビジュアルシミュレーション手法を検討するため,固体を対象とした物理シミュレーションと密接に関係する分野である,連続体力学および計算力学の調査を行った.そして,有限要素法(FEM)を代表とする自然法則に比較的厳密な物理シミュレーション手法と,位置ベース運動力学(PBD)のように独自の原理に基づいて現象の外観を効率的に描画するビジュアルシミュレーション手法を比較することで,前者で対象とする自然現象を後者で再現するための指針を見出した. これを応用し,FEMでは節点ごとに曲げ応力を考慮する必要があるため計算が複雑となる塗膜のたわみ現象を,PBDに基づく節点間の距離制約のみで記述することができた.既存のPBD手法では,膜状物体や塗膜を含むシェル状物体に対して曲がりにくくするような制約しか与えられなかったが,考案した新たな制約によって時間経過とともに徐々に曲がっていく現象を再現できるようになった.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は,塗装された金属物体の劣化表現における最適なビジュアルシミュレーション手法を検討するため,CGで用いられる手法よりも自然法則に対して厳密な計算を扱う物理シミュレーションを含め既存手法の調査および比較を行った.そして,固体に関する現象について力学的な解析,時間・空間的な離散化することによって実行される物理シミュレーション,そして独自の原理に代替することで外観の写実性を保持したまま計算を効率化するビジュアルシミュレーションという,一貫した関係性とそれぞれを結びつける方法を見出した. これを応用して,塗膜の剥離を連続的な曲げ応力の分布を前提とする有限要素法によるたわみ現象として再現し,それを頂点の位置関係の制約に変換することで徐々に反返っていく様子を比較的高速に描画することが可能となった.
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究においては,連続的に分布している応力を,独自のモデルに基づいて局所的な力へと置き換えてシミュレーションを行ってきた.しかし,シミュレーションの分野においては有限要素法を代表とする,連続体を離散的なモデルで表現する既存手法とその応用が数多く提案されている.しかし,連続体力学に基づく離散化を用いたシミュレーションは一般的に大きな計算量が必要となる.そこで,塗膜の変形が基板から分離した後に始まることを利用し,連続体力学に基づくシミュレーションの対象を動的に変化させ手法を開発する.塗膜上のある領域が分離しているか否かの判定には,これまで通り高速で計算可能な独自のモデルを用い,さらに剥がれ落ちた塗膜片はシーンから削除することで,シミュレーションに必要な計算量を最低限に抑えられると考えられる. また,錆の生成及び,その他の劣化要因に関する先行研究をもとに,塗膜の影響を考慮した金属表面のウェザリング手法の開発に取り組む.そしてARシステムの開発に向けて,生成したオブジェクトを現実の画像上で表示し,調和がとれるようにオブジェクト及び表示方法を調整していく. これまでの研究をまとめ,AR分野のトップカンファレンスであるISMAR 2023(斯界第二位の学術誌IEEE Transactions on Visualization and Computer Graphicsに採択論文は収蔵)に投稿する.
|