2022 Fiscal Year Annual Research Report
解糖系とリン脂質合成系の結合による細胞分裂の試験管内再構成
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22J11648
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
佐藤 岳 慶應義塾大学, 理工学研究科(矢上), 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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Keywords | 合成生物学 |
Outline of Annual Research Achievements |
ゲノム科学により、細胞に最低限必要な機能は解糖系、タンパク質合成系、細胞分裂系、ゲノム複製系であることが明らかになった。これらの生化学システムは、全て試験管内において再構成が達成されているため、これらを組み合わせることで生命そのものの再構成に迫ることができる。私は採用以前に、解糖系とタンパク質合成系の共役系を試験管内において再構成することに成功していた (G-PURE)。G-PUREは、解糖系が生産したエネルギーを使ってタンパク質を合成する。本研究課題では、G-PUREにリン脂質合成系を導入することによって、従来のリン脂質合成系の活性を向上し、細胞分裂を試験管内において再現することを目指している。 今年度は、G-PUREの2つの問題を解決した。1つ目は、G-PUREの老廃物の蓄積に伴うpHの低下である。pH低下が合成タンパク質を阻害することが示唆されたため、老廃物を乳酸からエタノールへと変更した。変更にあたって、新たに2種類の酵素を精製し、最適濃度を検討した。これによってpHの低下を回避し、G-PUREのタンパク質合成量を約2倍に向上することができた。 2つ目は、G-PUREのエネルギー源がグルコースではなくグルコース6リン酸 (G6P)である点である。多くの生命はグルコースを取り込んで代謝することでエネルギーや重要な生体分子を合成しているため、グルコースの取り込み機構は多く存在する。しかしG6Pの取り込み機構は存在しないため、G6Pをエネルギー源とするG-PUREは、外界から栄養を得ることができず、活動時間に限界があった。そこで、グルコースからG6Pを合成する酵素を導入することで、グルコースをエネルギー源とするG-PUREを構築した。グルコースを基質とすることで一時的にタンパク質合成量が低下したが、低分子組成を検討することでG6P使用時と同程度の活性を維持することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
G-PUREに使用している解糖系タンパク質にRNaseが混入していることが判明し、その除去を試みていたため。RNaseの混入源はタンパク質精製用の低温室である可能性が示唆されたため、低温室を使用しない精製プロトコルの確立を行っていたことで、研究の進展が阻まれた。しかし、RNaseによって今まで使用していたG-PUREは20%程度の活性しか出せていなかったことが明らかになっていることから、RNaseの除去によってG-PUREの高効率化が達成されることが期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、グルコースを開始基質とするG-PUREの発現量の向上を目指す。残された条件検討は、解糖系濃度の検討、グルコース濃度の検討である。これらを検討した後、G-PUREを細胞様小胞であるリポソームに封入し、細胞のように外界からグルコースを取り込んで機能し続けるG-PUREを構築する。これによって、G-PUREの活性や持続時間の向上が見込まれる。G-PUREの機能の向上によって、多数のタンパク質の合成が必要なリン脂質合成系をG-PUREに導入することが可能になり、当初の研究目的であった解糖系、タンパク質合成系、リン脂質合成系の3つの必須生化学システムの試験管内再現が実現されると考えている。
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