2022 Fiscal Year Annual Research Report
関東・中部高地の初期鉄器文化研究-東アジア的視点に基づく生産と流通論を中心に-
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22J15468
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Komazawa University |
Principal Investigator |
鈴木 崇司 駒澤大学, 人文科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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Keywords | 弥生時代 / 鉄器加工技術 / 鉄器入手 / 長距離交易 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、これまで実施してきた調査、研究にて実態が明らかになりつつある関東・中部高地の地域性を探るべく、周辺地域である新潟県域や東海地域、近畿中部地域の資料調査を積極的に実施した。また、関東・中部高地で多数出土する鉄製武器に注目し、加工技術に注目した資料調査を全国規模で実施することで、高度な技術で作られた資料の分布状況も整理している。さらに、近年その数が増加している鉄器製作遺構の操業レベルを全国的に整理することで、鉄器加工技術に基づいた鉄器入手を考える下地を整えた。 鉄器製作遺構の分析では、関東・中部高地に高温操業が指摘できる例も認められず、鉄器加工を想定できる遺構自体も少ないことが判明した。当該地域の鉄器加工技術が稚拙であることを再確認できたと言える。これは地域内での製作が想定される小型鉄器の加工技術とも矛盾しない。 他方、関東・中部高地における高度な技術で作られた鉄器の量は、周辺地域を凌駕することが本年度の調査で明らかとなった。とくに弥生時代後期段階における大型で重厚な鉄製武器の出土量は、北部九州を含む西日本にも劣らない。これらの鉄製武器のなかには舶載品も含まれると思われ、広域に及ぶ鉄器流通網の存在を示唆している。 上述した調査成果により、製品化された鉄器の入手に尽力した関東・中部高地の様相がより如実となってきた。これに対し近畿中部では、地域内の加工技術で製作できる鉄器の比率が高く、加工しやすい鉄素材の入手に力を注いでいた可能性がある。本年度の調査、研究により、関東・中部高地のにおける鉄器加工と入手の実態が明確化したことはもちろん、その地域性を言及できるデータベースも整ってきた。 なお、今年度の調査成果は『新潟県考古学会2022年度秋季シンポジウム』や『第18回古代武器研究会』にて報告しており、論文も査読審査を受けている状況にある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
関東・中部高地を主たる分析地域とし、従来の考えとは異なる東アジア社会像や鉄器普及がもたらす社会変化を探る本研究において、当該地域の実態と地域性の整理は欠かせない。そのため、本年度は鉄器の加工と入手に焦点を当て、その実態と地域性を明確にすべく、資料調査を進めてきた。その結果、製品化された鉄器の入手に尽力していた当該地域の地域性が判明しつつあり、その鉄をめぐる流通網が日本列島外にまで及んでいた可能性も出てきている。長距離交易にて入手した鉄器が副葬品として消費され、その保有者に必ずしも上位性が認められないことも、現在進めている分析から明らかになり始めた。本年度の調査、研究により関東・中部高地の実態や地域性が明確化したことは間違いなく、順調に研究を遂行できていると考える。 他方、北部九州との積極的交流や多数の舶載品が報告される山陰や北陸の調査は不足している。関東・中部高地の地域性をより明確化すべく、これらの地域の分析を進める必要がある。また、朝鮮半島の資料調査が実施できていないため、舶載鉄器の基準やその流通網が不鮮明であることも注意を要する。本研究を遂行するために、朝鮮半島より出土した資料と関東・中部高地にて出土した資料の比較検討を実施していきたい。 さらに、鉄器保有がもたらす社会的影響の明確化も引き続き進めていかなければならない。本年度は鉄剣の分析にとどまったが、螺旋状鉄釧の分析にも着手し、多角的な視点に基づき、鉄器普及と社会変化の多様性を考えていく必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の調査、研究により、製品化された鉄器の入手に尽力していた関東・中部高地の地域性が明確化してきた。ただし、この地域性は周辺地域との比較により導き出したものであり、先学にて舶載鉄器の出土量が評価されてきた日本海沿岸地域との比較が不足している。そのため、今後は日本海沿岸地域の資料調査を積極的に実施し、本年度に行った鉄器製作遺構の分析成果と照らし合わせることで、当該地域の鉄器加工や入手の実態を明らかにしていきたい。さらに、これまでの分析で明らかにしてきた鉄器加工技術の見解により客観性を持たせるべく、鍛冶実験の実施も検討している。 また本年度の調査成果により、朝鮮半島と関東・中部高地の直接的交流が想定できる状況となってきた。ただし、日本列島内の資料調査のみで舶載品を認定することは困難であり、朝鮮半島と日本列島の資料の比較検討が必須となる。そのため、関東・中部高地で多数出土する鉄剣を中心に、朝鮮半島の資料調査を実施し、舶載品と日本列島内で製作された資料の弁別作業を進めていきたい。当該地域での調査を実施すべく、韓国に赴き、資料の管理状況を確認するとともに、研究者間の交流関係を広げている。 さらに鉄器保有者の階層性を探るべく、これまで分析してきた鉄剣にくわえ、螺旋状鉄釧が副葬された墳墓の分析も進めていきたい。同時に日本海沿岸地域や北部九州といった鉄器副葬が盛んな地域の分析も並行して進めることで、鉄器副葬習俗や鉄器保有者像からみる関東・中部高地の地域性も探っていく。 そしてこれらの分析成果をふまえ、鉄器普及がもたらす社会的影響の多様性を明確化するとともに、その地域性が生じる要因を考えていく。そのため、関東・中部高地を中心とした弥生時代研究の状況を改めて整理し、最新の動向もふまえた考察を進めていきたい。
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