2022 Fiscal Year Annual Research Report
診断の社会的機能に関する実証研究-診断の不在に注目して-
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21J00417
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
上野 彩 中央大学, 文学部社会学専攻, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 希少未診断 / 診断 / 社会政策 / ネットワーク / 支援 |
Outline of Annual Research Achievements |
私の研究課題の目的は希少未診断患者という診断の確定が現在の医療技術ではほぼ不可能な患者の存在を前提に、診断名の社会的機能をその有無をふまえて社会学的に検討することである。本年度は所属機関の異動もあり、時間の多くをそちらに割く必要が生じたが、そのような中でもコロナ感染防止に細心の注意を払いながら愛媛・松山で障害者支援に繋がる商品開発を行った民間団体組織の代表者と連絡を取り合うことに成功し、実際に施設の見学や今後の調査の打ち合わせを行うことができた。また、希少未診断疾患患者の診断を特定するための国際的なネットワークの某国代表医師との連絡もとれ、国際的ネットワークに参加している各国の代表者名簿一覧情報をご提供していただき、今後のインタビューすべき対象者が一気に限定・特定できた一年であった。当該医師とも引き続き、情報交換とインタビュー調査を行っていく予定である。 そして、障碍者総合支援法に関する審議録の情報収集・分析がほとんど終わり、難病政策・難病法施行以前から、当該制度において診断名によって支援対象範囲を区分けすることに疑義が生じていることが判明した。次年度以降はこのデータをもとに障害学会、福祉社会学会で口頭報告を行っていく予定である。 くわえて、これまでの希少未診断患者家族とIRUDプロジェクトの動向をまとめたものを日本保健医療社会学会誌に投稿しており、2023年度掲載が確定した。また来年度末に希少未診断患者の語りと難病政策・難病法の審議録の分析をまとめたものを出版する予定である。 以上から、本年度は精力的に学会報告を行うことは叶わなかったが、論文や著書など、執筆としてのアウトプットと資料収集や調査対象者・調査地の拡大に力を入れた一年となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究計画は当初、国内の難病患者支援者と海外の希少未診断患者支援者にインタビュー調査を行い、その支援の実践内容や実践に至るまでのプロセスを記述することを目的としていた。しかし、某医師の協力により、研究代表者の想定以上に医師側のネットワークが形成されていること、そしてその国際的なネットワークから逆算する形で国内にも類似した団体が少数ではあるが存在していることが明らかになった。これは2022年度の研究活動を通して、某医師からの情報を得られなければわからなかったことである。くわえて、愛媛松山の某団体では継続した利益を生みながら持続可能な障碍者支援を実践している様子を伺えた。これから具体的な支援内容やそれに至るまでのプロセスは聞き取りをしていく予定であるが、そこで得られたデータは難病患者や諸外国の希少未診断患者会での支援の内容・実態と十分に比較可能であり、「持続可能」という意味では本研究の完成に必須と言っても過言ではない貴重なデータとなる。以上より、本年度は当初の予定を超えてはるかに有益な機会に恵まれた一年であり、来年度以降の調査が特別研究員の最終年度以降の研究にも影響を及ぼし得る調査になることが予想されるからである。
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Strategy for Future Research Activity |
当初インタビューを予定していた海外患者会の運営者とも連絡がとれ、すでにいくつか情報をいただいているが、2021年度・2022年度は当該患者会へのヒアリングも含めて、いささか情報収集に偏ってしまっているきらいがある。2023年度はむしろ学会報告や執筆・出版などアウトプットに力をいれ、これまで得られた知見の研磨にも努める一年にする必要があると考える。その分、調査が滞ってしまう可能性はあるが、研究水準を落とさないためにも、水準の高い報告・論文の作成に取り組む1年にし、研究代表者が今後の研究活動で取り組むべき課題をあぶりだす作業に一度注力しようと思う。
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