2021 Fiscal Year Annual Research Report
ヒストンメチル化酵素G9aを分子標的とした疾患治療法の開発
Project/Area Number |
21J01114
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Tokyo University of Pharmacy and Life Science |
Principal Investigator |
高瀬 翔平 東京薬科大学, 生命科学部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | ケミカルバイオロジー / エピジェネティクス / ヒストンメチル化酵素G9a / 阻害剤 / 鎌状赤血球症 / グロビンスイッチング制御機構 / HUDEP-2 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、ヒストンメチル化酵素G9aを標的分子とした治療薬開発に向け、令和3年度は大別して以下の2点に取り組み、研究を推進した。 1. 鎌状赤血球症に対する治療薬開発。G9aは出生後に発現抑制する胎児型グロビン遺伝子の再活性化と関連があることから、本研究ではマウスにおけるG9a阻害剤の薬効評価と合わせて、その詳細な作用機構の解明を目指している。G9a阻害剤が鎌状赤血球症の治療薬としての有用性を示すため、ヒト型鎌状型ヘモグロビンを発現するトランスジェニックマウスおよび正常マウスにおいて、G9a阻害剤を連続投与して胎児型グロビンの再活性化および薬剤の安全性を評価した。経時的に採血した血球成分を用いて胎児型グロビン遺伝子の発現量を定量PCR法によって評価した。その結果、G9a阻害剤投与1週間後から有意な発現亢進が認められた。加えて、投与4週間後の血球成分では、ヒストンH3K9ジメチル化レベルの減少がウェスタンブロッティングで検出されたことから、in vivoにおけるG9aの阻害活性が示唆された。また、投与4週間後においても顕著な体重変化が見られなかった。以上の結果から、本薬剤はin vivoにおいてもG9a阻害活性を有するだけでなく、顕著な副作用を示さないことが確認された。また、G9a阻害による胎児型グロビン遺伝子の制御機構を解明するため、ヒト赤芽球細胞株HUDEP-2を用いてRNA-seq解析、ChIP-seq解析を行った。その結果、有意に発現変動する遺伝子を特定することに成功した。 2. G9a阻害に対して感受性を示す腫瘍における原因遺伝子の同定。本研究では、独自に開発したG9a特異的な阻害剤に対して感受性を示す培養細胞株を探索した結果、G9a阻害依存的に細胞増殖が抑制するヒト白血病細胞株を特定した。現在、その作用機序の解明に向け、RNA-seq解析を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ヒストンメチル化酵素G9aを強力で選択的に標的とした阻害剤を利用し、本研究では治療薬としての有用性を示すことを目的としている。本年度は、先行研究によって独自に開発されたG9a阻害剤の活性評価についてマウス、培養細胞を用いて解析した。まず、鎌状赤血球症に対するG9a阻害剤の有効性を評価するため、正常マウスおよびヒト鎌状赤血球症モデルマウスにおいて、G9a阻害剤を連続投与して薬効および安全性を評価した。連続投与から1週間ごとに採血した血球成分を用いて胎児型グロビン遺伝子の発現量を定量PCR法によって評価し、投与4週間後の血球成分を用いてG9a活性の指標であるヒストンH3K9ジメチル化レベルをウェスタンブロッティングで検出した。その結果、G9a阻害剤投与1週間後から有意な胎児型グロビン遺伝子の発現亢進が認められた。また、投与4週間後の血球成分では、ヒストンH3K9ジメチル化レベルの減少が検出されたことから、in vivoにおいてもG9aの阻害活性が示唆された。加えて、投与4週間後においても顕著な異常が観察されなかった。以上の結果から、用いたG9a阻害剤はin vivoにおいてもG9a阻害活性を示すだけでなく、副作用等による毒性が見られないことが確認された。また、胎児型グロビン遺伝子の発現調節のメカニズムを解明するため、ヒト赤芽球細胞株HUDEP-2を用いてRNA-seq解析、ChIP-seq解析を行った。その結果、有意に発現変動する遺伝子を特定することに成功した。一方、独自に開発したG9a特異的な阻害剤に対して感受性を示す培養細胞株を探索した結果、G9a阻害依存的に細胞増殖が抑制するヒト白血病細胞株を特定した。現在、G9a阻害に対して感受性を示す原因遺伝子を同定するため、RNA-seq解析を行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
ヒストンメチル化酵素G9aを強力で選択的に標的とした阻害剤を利用し、G9aを標的分子とした治療薬開発に向け、引き続き下記の研究を推進する。 1. 鎌状赤血球症に対する治療薬開発。鎌状赤血球症に対するG9a阻害剤の有効性を評価するため、正常マウスおよびヒト鎌状赤血球症モデルマウスを使用した薬効および安全性試験を行った。その結果、使用したG9a阻害剤は、副作用等による毒性を示さず、in vivoにおいてもG9a阻害活性を示すことで胎児型グロビン遺伝子を発現亢進することが示唆された。そこで、ヒト赤芽球細胞株HUDEP-2を用いてG9a阻害による胎児型グロビン遺伝子の発現調節のメカニズムを解明する。RNA-seq解析、ChIP-seq解析による網羅的な解析は、G9a阻害剤によって有意に発現変動する遺伝子を特定したことから、これら遺伝子のG9a阻害との関連性を詳細に解析する。また、遺伝子の発現抑制または過剰発現細胞株を作製し、G9a阻害剤による胎児型グロビン遺伝子の発現亢進への影響について評価する。加えて、現在までにこのグロビンスイッチング制御機構に対して深く関与することが知られている転写抑制因子BCL11AおよびZBTB7Aと、G9aおよびG9aによって調節されていた遺伝子の関連性についても評価する。 2. G9a阻害に対して感受性を示す腫瘍における原因遺伝子の同定。G9a阻害依存的に細胞増殖が抑制するヒト白血病細胞株を特定した。そこで、その作用機序の解明に向け、RNA-seq解析を行っている。得られた結果をもとに、Gene Ontology解析によって有意に発現変動する遺伝子群を同定する。次に、定量PCR法によって各遺伝子の発現変動について再現性を確認することを予定している。
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