2022 Fiscal Year Annual Research Report
Universality Investigation of Subcritical Turbulent Transition in Wall-bounded Shear Flow and Development of Stochastic Model for Engineering Application
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22J14598
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
神山 一貴 東京理科大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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Keywords | 亜臨界乱流遷移 / チャネル流 / 直接数値解析 / 大規模乱流パターン / 非平衡統計力学 / 有向浸透現象 / 乱流モデル |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,壁面せん断流における低レイノルズ数での乱流維持限界(下臨界レイノルズ数)の特定とその特異的な亜臨界遷移現象の工学応用に向けた基礎研究である.遷移現象応用の社会実装には,遷移という非平衡相転移現象の理解とシミュレーション負荷の軽量化が必須である.本課題では流れの詳細に依存しない普遍的特徴の抽出,それを基とした代理モデル構築を目的としている. 2022年度は,基礎的な壁面せん断流:チャネル流・側壁のあるチャネル流(ダクト流)・同軸二重円筒流を対象に世界最大規模の直接数値解析(DNS)を実施した.流路境界条件の設定においては,既存のDNSプログラムに埋め込み境界法を導入した.本DNSにより,低レイノルズ数での乱流維持機構として形成される乱流と層流が共存した大規模間欠パターンの境界条件依存性を観測した.特に,ダクト流の乱流パターン(乱流縞や乱流斑点)はチャネル流と比較して,遷移初期段階では従来知られる乱流縞と同一視できたが,臨界近傍では側壁が乱流パターンを強化/弱体化した.また,乱流パターンの空間密度と乱流間距離の相関長といった時空間間欠性に関する統計量が冪的スケーリング則に従うことが分かった.この冪則の指数群の値については,非平衡相転移の最も基礎的なモデルである有向浸透現象(DP)で特徴づけられる臨界指数群と一致する,いわゆるDP普遍クラスに属することを明らかにした.他の流れの遷移もDP普遍性があるものと期待している. 当該DNSの実施においては,東北大学サイバーサイエンスセンターとの共同研究として,同センタの大規模科学計算システムを利用した.また,DNSの高速化のために主にファイルI/Oを改善し,計算時間の大幅な削減を達成した.DP普遍クラスの議論は佐野雅己教授(上海交通大学)と玉井敬一博士(東京大学)と共同研究体制にあり,乱流パターンのモデル化についてはYohann Duguet博士(CNRS)と議論を進めいている.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
DNSプログラムの高速化を達成した結果,各流路の亜臨界遷移を対象とした大規模DNSは順調に進んでおり,本研究の基盤となる層流・乱流共存の大規模間欠パターンのデータの蓄積も大幅に進んだ.ただし,臨界極近傍では時空間スケールが急拡大するため,今回のDNSでは計算領域サイズの制約から,臨界極近傍に限って乱流挙動を長時間安定的に観測することが困難であった.蓄積したパターンデータを基にした遷移現象の解釈は計画通り進んでおり,マクロな観点で乱流パターンの境界条件依存性とDP普遍性との関連を解明しつつある.さらに,三次元可視化を実施し,渦構造の観点からも乱流パターンの流路形状依存性を定性的に明らかにした.これらの成果を総合して,同軸二重円筒流の乱流パターンを再現可能な確率モデルとパラメータセットの探索が完了した.また,蓄積した各種乱流パターンと開発中の乱流遷移モデルを軸とした情報幾何・統合情報理論との融合については文献調査ベースで準備中である. 上記の成果は,2022年度に国内外の複数の会議で口頭発表しており,ダクト流の遷移に潜むDP普遍クラスに関する論文と同軸二重円筒流における多様な乱流パターンのモデル化に関する論文を執筆中で,いずれも2023年度の第二四半期中に英文学術雑誌に投稿予定である.
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度は本研究計画の最終年度であるため,亜臨界乱流遷移の包括的解釈に向け,DNSでの不足ケースの調査,蓄積データを基にした代理モデルの提案・検証とその応用先の模索を引き続き実施する.具体的な問題点として,今回のDNSの計算規模も大規模ではあるものの,臨界極近傍に対しては計算領域サイズ・観測時間ともに未だ十分とは言えない.臨界間際の乱流挙動をより詳細に調査するためには,その数十倍の計算領域サイズが要求されると概算される.しかし,その規模のDNSは事実上実行困難であるため,代理モデルを用いたNavier-Stokes方程式を解かない超大規模シミュレーションが有効であると検討している.代理モデルの作成においては,機械学習を用いて,これまでのDNSで蓄積した乱流パターンとその挙動の特徴を抽出する.また,亜臨界遷移と情報幾何・統合情報理論との融合については,実際のDNSデータと開発中の確率モデルを用いて議論を進展させる予定. 今後も共同研究体制を継続して非平衡統計力学的観点での解釈を進める.また,包括的な乱流パターンのモデル化については,同軸二重円筒流の確率モデルをベースにYohann Duguet博士とOlivier Dauchot博士(ESPCI)と議論を実施する予定であり,汎用モデルへの昇華を目指す. なお,2023年度は博士課程の標準修業年限の最終年度にあたるため,年度後半は博士論文執筆と審査に専念する予定.前半は既に採択済みの国際会議での口頭発表2件を含め積極的に対外的な成果発表を行う.
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