2022 Fiscal Year Annual Research Report
本居宣長の詩学とその思想との連関ー表現論的観点から
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21J00022
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
藤井 嘉章 日本大学, 文理学部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 本居宣長 / 縁語 / 新古今和歌集 / 国学 / 荻生徂徠 / 杜甫 / 次韻 / 古文辞学 |
Outline of Annual Research Achievements |
報告者の研究課題は「本居宣長の詩学とその思想との連関―表現論的観点から」である。申請時には当該課題を、[1]宣長の和歌解釈、[2]宣長自詠歌、及び[3] 徂徠派詩学との関連という三項目に細分化して研究を進める計画として提出した。令和4年度はこのうち[1]宣長の和歌解釈及び[3]徂徠派詩学に関する研究を主に公表したため、当該項目に関して研究実績の報告を行う。 [1]宣長の和歌解釈 報告者はこれまで本居宣長の和歌解釈を主に「本歌取」の側面から分析してきた。令和4年度は宣長の縁語解釈について、彼の和歌注釈の評語に基づきその分析視点を析出した。ひとつには従来「縁語」と一括されて理解されていた「かけ合」という評語に縁語を含むことばとことばの繋がりに関する宣長の認識が表されていることを指摘した。これを「宣長の「かけ合」の説ー石原正明『尾張廼家苞』を手掛かりとしてー 」(『鈴屋学会報』2022年12月、第39号)として公表した。また、評語「たたかはす」において二つの事柄を対照的に捉えようとする宣長の思考の傾向性を明らかにし、これを「若き日の宣長は和歌をどう読もうとしたか―『草庵集玉箒』をめぐって 」(宣長十講 2022年7月16日 本居宣長記念館)において発表した。 [3] 徂徠派詩学 本居宣長に連なる古文辞学の古典受容について、その学派の領袖である荻生徂徠の詩作を杜甫への次韻詩に基づいて分析した。そこでは韻字の意味転換は、詩全体の色調を、原詩と次韻詩とのコントラストとして際立たせる役割を担っていることを明らかにした。また、同じように原詩と次韻詩におけるコントラストとして、本歌取り的な発想に基づく物語の展開、同一詩的世界内での別の視点を描く次韻詩のあり方の可能性を提示した。これを、「荻生徂徠の杜甫次韻詩」(『樹間爽風』2023年3月、第2号)として公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」で述べたように、本研究は当該課題を[1]宣長の和歌解釈、[2]宣長自詠歌、及び[3]徂徠派詩学との関連に分けて研究を進めている。上記の分類に従って、令和4年度の進捗状況報告を行う。 [1]宣長の和歌解釈 「研究実績の概要」で述べた通り、宣長の縁語解釈に関する宣長の分析枠組みを明らかにした。このことは次の[2]宣長自詠歌に対する基礎研究としても位置付け得る。 [2]宣長自詠歌 上記[1]宣長の和歌解釈についての実証的な研究が本歌取りと縁語に関しては一定の達成に至った。そのことによって[2]宣長自詠歌に関する研究の基礎が固まったと言える。 [3]徂徠派詩学との関連 当該項目の研究分野は、報告者がこれまで扱ってきた国学における和歌に対して、古文辞学における漢詩という本研究課題から初めて 取り組むことになるものである。当該年度はその成果として、荻生徂徠の杜甫詩への次韻詩の研究を公表した。これは古人への回帰を共に目指す古文辞学・国学において、先行する詩人の作品を前提にした詩作のあり方を究明することに寄与する。 以上のように、令和4年度の研究の進捗は、[1]宣長の和歌解釈に関する研究に一定の決着をつけた上で、[2]宣長自詠歌に関する研究の基礎を整備したと言うことができる。そして[3]徂徠派詩学においても、これまで[1]宣長の和歌解釈に関する研究において推進してきた本歌取りとの関連を指摘し得た。全体として「本居宣長の詩学とその思想との連関―表現論的観点から」という研究課題の達成に向けて、計画に即して進行していると言うことができる。
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Strategy for Future Research Activity |
[1]宣長の和歌解釈 これまで明らかにしてきた本歌取りおよび縁語に関する分析枠組みを用いて『歌合評』における宣長の実作に関する態度を検証する。『歌合評』は自身の門弟の和歌に対して判詞を付けるものである。宣長自身の和歌解釈の分析枠組みが具体的にどのような形で、門弟の詩作評価に表れているかを明らかにし、あわせて【[2]宣長自詠歌】の分析へと橋渡しをする研究とする。
[2]宣長自詠歌 『自撰歌』内の宣長詠歌の分析のために、まず『自撰歌』中に1757首ある宣長自詠歌から本歌取りおよび縁語を含む歌を抽出し、逐次注釈を付す形で、本歌や縁語関係(広く宣長の評語として用いられている「縁」・「よせ」・「かけ合」・「たたかはす」などで分析された視点を含む)をひとつひとつ明らかにしていく。その上で当該注釈に基づき、宣長自衛歌の準則と実際とに関する特徴を分析する。
[3]徂徠派詩学との関連 荻生徂徠の次韻詩に関して、杜甫以外の詩人に対する詩作の分析を進める。また古文辞学派の漢詩解釈に関して、徂徠派による漢詩の断章取義的解釈と宣長による和歌の本歌取解釈の対照研究を進める。当該研究は高山大毅「古文辞派の詩情―田中江南『唐後詩絶句解国字解』」(『近世日本の「礼楽」と「修辞」:荻生徂徠以後の「接人」の制度構想』東京大学出版会・2017)で提起されている徂徠派の断章取義と本歌取との親近性を念頭に置いており、具体的には徂徠『絶句解』『絶句解拾遺』における断章主義的解釈と宣長『草庵集玉箒』『新古今集美濃の家づと』における本歌取歌解釈を対照し、典拠の再利用に関する両者の表現論的な内実の異同を記述する。
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