2021 Fiscal Year Annual Research Report
植物のオルガネラ特異的ステロール輸送マシナリーの解析
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21J40112
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Japan Women's University |
Principal Investigator |
小林 啓子 日本女子大学, 理学部, 特別研究員(RPD)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 花粉 / 葯 / タペータム / ステロール / イソプレノイド / ポーレンコート |
Outline of Annual Research Achievements |
今までの研究から、ERに局在するステロール生合成上流域の生合成酵素をコードする遺伝子のノックアウト変異体では、プラスチド由来のステロールエステル蓄積オルガネラであるエライオプラストが膨らまずに潰れてしまい、成熟花粉において花粉表面にポーレンコートが沈着しなくなることが透過電子顕微鏡観察によりわかっていた。これらの形質はエライオプラストに蓄積するステロールエステルが減少したため引き起こされると考えられるので、この形質を指標としてステロール生合成経路のより下流域で機能する生合成酵素の変異体を解析した。驚くべきことにこれらの変異体ではエライオプラスト及びポーレンコートの形態は野生型とあまり変わりがなかった。さらにステロール生合成中流域の酵素の変異体の葯の電顕観察を検討したところ、エライオプラストの潰れとポーレンコートの沈着は、観察する葯によって個体差が大きいことが分かった。 また、ステロール生合成の鍵酵素に対して抑制的に機能する調節因子の欠損変異体がステロールエステルを過剰蓄積することに着目して、この調節因子欠損変異体の葯内の形態を透過電子顕微鏡で観察した。その結果、エライオプラスト及びポーレンコートの形態に変化は見られなかった。一方、この変異体にステロールアシル化酵素の変異体を掛け合わせて作製された、フリーステロールを過剰に蓄積する二重変異体は稔性の低下を示す。この二重変異体の葯内ではエライオプラストに異常はないが、多くの花粉が潰れてしまい花粉の成熟が途中で停止している様子が見られた。このアシル化酵素はエライオプラストのステロールエステル蓄積には機能しないと考えられているため、ERにおけるフリーステロールの過剰蓄積が花粉の発達阻害につながると考えられ、フリーステロールの細胞毒性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題では葯のタペータム細胞特異的に見られるステロールエステルを高蓄積するプラスチド由来のオルガネラであるエライオプラストに着目し、「1、エライオプラストへの輸送が起こるステップの推測」「2、ステロール生合成酵素が局在するオルガネラの特定」を行うことにより、植物のオルガネラ特異的ステロール輸送機構を調べることを計画している。 項目1については、ステロール生合成経路の下流域で機能する生合成酵素の変異体やステロールの蓄積が異常となる変異体の葯を透過電子顕微鏡で解析することにより、エライオプラストへの輸送がステロール生合成のどのステップで起こっているのかの推測を行う計画であり、昨年度は当初計画していた実験・解析を順調に行うことが出来た。化学固定サンプルの透過電子顕微鏡観察では、想定していたよりも小胞体膜とオルガネラの形態を詳細に観察することができたため、観察する花芽の数を増やして各サンプルのステージを揃えることで、ステロールの輸送機構の可視化に繋がるデータを取得出来る手応えを得た。 一方項目2については、予備的検討として35Sプロモーター誘導プラスチド局在YFP発現植物体と共焦点顕微鏡を用いて葯内のYFP蛍光の観察を試みたところ、葯の最内層に位置するタペータム細胞で蛍光タンパク質の局在を調べることは、外層の細胞内に蓄積する蛍光タンパク質の映り込みが激しく、想定していたよりも難しいことが分かった。そこで、構築ベクターの見直しなどの実験計画の再検討を行なった。
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Strategy for Future Research Activity |
1、エライオプラストへの輸送が起こるステップの推測 前年度までに、ステロール生合成や蓄積などが異常となる変異体の葯を材料として、化学固定法でタペータム細胞内の脂質オルガネラ及びそれを原料として形成されるポーレンコートの形態変化を観察した。そこで今年度は化学固定法を用いた観察結果の再現性を確認しつつステージを揃え、加圧凍結固定法を用いた観察を試みる予定である。化学固定法は脂質の可視化に適した固定法であるが、試料調整の過程でオルガネラの構造変化などのアーティファクトが生じる可能性がある。一方加圧凍結固定法は、細胞の状態を瞬間的に止めたまま固定することができるため、生細胞に近い状態でオルガネラの形態を固定出来る手法である。両固定法の結果を比較することで、より生細胞に近い状態でのオルガネラと脂質の局在を明らかにしていきたい。 2、ステロール生合成酵素が局在するオルガネラの特定 前年度での1の結果から、シクロアルテノール合成酵素などのイソペンテニル二リン酸よりも下流のステロール生合成酵素が細胞内のどのオルガネラに局在しているのかを知ることが、ステロールのエライオプラストへの輸送過程を知る鍵になると思われた。また、タペータム細胞内での蛍光タンパク質局在の観察は、タペータム細胞が葯の最内層に位置するために難しく、コントロールについてもタペータム細胞特異的に局在が観察出来るものを新たに準備する必要があることが分かった。そこで、ステロール生合成酵素の局在を調べるために、タペータム特異的発現プロモーターを用いて蛍光タンパク質を融合したステロール生合成酵素(シクロアルテノール合成酵素を予定)、エライオプラスト局在蛍光タンパク質、タペトソーム局在蛍光タンパク質などを発現するためのベクターコンストラクション及び植物体への導入を行う予定である。
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