2022 Fiscal Year Annual Research Report
被服経験を通じた身体的主体性の構成に関する現象学的研究
Project/Area Number |
22J00346
|
Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
赤阪 辰太郎 立教大学, 文学部/文学研究科, 特別研究員(PD)
|
Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
|
Keywords | 現象学 / 身体 / ファッション |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は〈衣服=拡張された身体〉とみなす従来の現象学的衣服論の議論を問い直し、身体とは異なった固有のあり方と意味を持つ事物としての衣服と、固有身体とのあいだに生じる差異の感覚を扱うことができる理論を構築することを目的として、主に文献調査を通じて研究を進めてきた。 本研究が扱う領域における先行研究および資料の調査を国外も含めて行うため、フランス・パリのフランス国立図書館およびフォルネイ図書館を訪問し、とりわけ現在に至る衣服をめぐる状況にとって重要な契機のひとつである既製服の誕生にかんして必要な調査を行った。本調査の成果は次年度以降、中・長期の研究滞在のための足掛かりとする予定である。 学会等での報告は行わなかったものの、書籍等への寄稿を通じて研究成果を発表している。具体的な研究の成果としては国内のファッション批評誌『vanitas』に「ウェールズ・ボナーという名のファッション・ハウス」を寄稿し、ポストコロニアル的状況におけるファッションのあり方について、時間的・空間的な観点から考察を行った。また、衣服を着る経験についてフェミニスト現象学の観点から論じたテクストが次年度、共著として刊行される予定である。また、これと関連する形で、博士論文以来取り組んでいる哲学者サルトルについての哲学研究を進めている。本年度は身体論の基礎的な理解に資する現象学についての基礎研究を進めた。これについての成果は次年度に書籍の形で刊行される予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は〈衣服=拡張された身体〉とみなす従来の現象学的衣服論の議論を問い直し、身体とは異なった固有のあり方と意味を持つ事物としての衣服と、固有身体とのあいだに生じる差異の感覚を扱うことができる理論を構築することを目的としていた。この点に照らすと、理論の最終的な構築にまでは至らなかったものの、その重要な糸口となる論点を、歴史的な観点から(既製服の誕生の歴史)、身体論の観点から(装いの現象学についての研究およびそれにかんする成果報告)、そして現代ファッションの観点から(イギリスのデザイナー・ウェールズ・ボナーについてのテクスト執筆)行うことができ、大きな進展があったと考えられる。 また、当初の予定のように国内学会での報告や調査は行わなかったものの、ファッション研究者との非公開の研究会を組織したほか、海外旅費を使用するなど、国外における研究状況を調査することができ、研究は大いに進展した。 また、査読付き論文という形ではないが、研究成果を着実に公表しており、その点も評価できると考える。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度の非常に大きな成果の一つとして、現象学的な観点から衣服について考察を進めるにあたっても、歴史的・社会的な環境という観点を欠かすことができないという点を、国外での調査を通じて発見したことにある。そのため、次年度以降は現象学的な衣服論の理論枠組みについての探求を進めつつも、同時に、服飾史や産業史的、文化史的な観点から、衣服を着る人びとが歴史的・社会的に置かれてきた状況についての文献調査を継続して進めてゆく予定である。そのうえで、身体的実践と社会とを同時に論じることができるブルデューの習慣についての理論について研究を進めるなど、本課題の取り組む論点をより深化させる研究を行ってゆく予定である。また、研究成果については、学術雑誌への寄稿等を通じて行ってゆく予定である。
|