2021 Fiscal Year Annual Research Report
日本の視覚メディア・システムとしての「からくり」の系譜―覗き絡繰、錦影絵、アニメ
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21J00668
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
福島 可奈子 早稲田大学, 文学学術院, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 幻燈 / 活動写真 / からくり / アニメーション / メディア考古学 |
Outline of Annual Research Achievements |
明治期の幻燈メディアの概念的メカニズムに注目し、西洋から輸入した幻燈という西洋啓蒙主義の道具が日本独自の宗教観(いわゆる「東洋の教(神道・儒教・仏教)」)と結びつき、師範学校の「修身教育」や、地方の初等教育を支えた僧侶等による「仏教教育」に発展した経緯を口頭発表や論文にまとめた。論文等に取り上げた鶴淵幻燈舗や池田都楽は、以前から明治期の中心的な幻燈業者として有名であったが、それらが明治期の学校と連動した道徳教育のメディアとして極めて重要なコンテンツを提供していたことはこれまでほとんど知られていなかった。そのため報告者は、新発見の鶴淵幻燈舗製「幼学綱要」スライド、池田都楽製「釈尊御一代記」や「観世音菩薩普門品略解之図」スライド等を精査し、当時の活用方法と学校教育との関係を明示した。またその際、同時代の人気メディアである錦絵や生人形等との題材比較もおこなった。その結果、江戸期以前からの日本の大衆娯楽的かつアニミズム的要素が、明治期の学校教育メディアである幻燈にも流れ込んでおり、その影響が大正期以降の日本のアニメーションにあることも明らかになった。 また昭和初期に実在した覗き式活動写真箱の再現を専門家指導の下でおこない、その「からくり」構造を把握した。それにより、箱内部のスクリーンに投影した映像を箱上部に取り付けたレンズを通して覗くメカニズムは、反射光学と屈折光学を掛け合わせた混淆的機構であることが判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、新型コロナウィルス感染症拡大の影響で地方への移動や公的機関での調査等の活動制限が予想されたため、比較的研究が進めやすい明治期以降の幻燈・活動写真のメカニズムの調査研究からおこなったため、大筋で予定通りに進捗した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策としては、令和4年度は、明治期以降の視覚メディアに直接的に影響を与えた江戸後期の「からくり」について、主に以下の三点から検証する予定である。まず、大型(行商用)・小型(玩具)の「のぞきからくり」装置の仕組みや物語主題等の調査をおこなうとともに、昭和初期に実在した、玩具映画を活用した「からくり」屋台である移動映画館とも対比し、その差異・共通点を明確化する。次に、江戸中期~末期にお座敷や寺院などで上演された日本の幻燈芝居(錦影絵、写し絵、影人形など)について、それらの内容やからくり・レンズの技術、流通のあり方などを精査する。 そして、江戸期以降の視覚装置の光源(燈明油、灯油、ガス、電球など)と被写体(静止画/動画、不透明(紙など)/半透明(パラフィン紙など)/透明(フィルムなど)との組合せによる光量の違い等を、専門家の協力の下でデータ化する。以上の観点から、明治期以降の視覚メディアにおける江戸文化の継続・変容の諸相を明らかにしたい。
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