2022 Fiscal Year Annual Research Report
日本の視覚メディア・システムとしての「からくり」の系譜―覗き絡繰、錦影絵、アニメ
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21J00668
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
福島 可奈子 早稲田大学, 文学学術院, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 幻燈 / 活動写真 / からくり / アニメーション / メディア考古学 |
Outline of Annual Research Achievements |
日本の視覚メディア・システムの系譜をメディア考古学的見地から探る試みとして、2022年度は明治期以降の視覚メディアにおける江戸文化の継続・変容の諸相を検証した。その一例として新発見の近江日野商人旧蔵の明治幻燈スライド一式を調査・分析して学会発表をおこなったが、そのさいに明治20年代の大阪で製造された幻燈スライドの表現技法が江戸期以来の錦絵・錦影絵の伝統を色濃く残しており、覗き絡繰の浮絵表現とも通底していること、また同時代の東京浅草の小林玄同や鶴淵初蔵製の「諺ポンチ」スライド画が江戸期のことわざ絵(諺画)を踏襲しつつ「近代化」していることが明らかになった。近代化したポンチ絵(風刺漫画)や道徳画については、2021年度の当該研究でおこなった幻燈メディアの修身・仏教教育活用の視座から明文化し、2022年12月刊行の『混淆する戦前の映像文化――幻燈・玩具映画・小型映画』(思文閣出版)の第一部に盛り込んだ。 そして専門技師等の協力を得て戦前の視聴覚装置を復元・実演する発表を2回おこなった。そこでは、昨今のコロナウィルス蔓延で関心が高まっている感染症とその対策(衛生問題)、2023年に100周年を迎える関東大震災の報道と復興・防災対策のメディア活用について、当時の視聴覚装置と解説書を用いて当時の様子を再現実演し、戦前期と現代とのメディア・システムの差異あるいは共通項を明示した。重要な共通項のひとつとしては、衛生幻燈・防災映画において感染経路や火災原因等のメカニズムを示す際に、漫画やアニメーションが適宜使用されていたことが挙げられよう。 また覗き絡繰「地獄極楽」や関連資料の現地調査をおこない、現在それら資料内容を検証中であるため、その検証結果については2023年度に学会発表をおこなう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
全体としては概ね順調に研究が深まってきているが、2022年度に実施予定だった視覚装置の光量調査が、複数の装置の運搬の問題や専門家とのスケジュール調整の問題等で実現に至らず2023年度に延期となったため。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究計画の推進方策としては、まず2022年度からの調査等をもとにして、江戸期から昭和期に至るまで日本の視覚メディア(覗き絡繰、錦影絵、アニメーション)表現に頻出する「あの世」の表象の問題を検証する。地獄極楽や妖怪・お化け等のテーマは覗き絡繰や錦影絵の人気演目であり、その人気度と表現法が紙芝居や映画やアニメーションにまで脈々と受け継がれていることが複数の実物史料から判明したため、それらの表象の変遷と個々の特徴を分析し、学会発表をおこなう。 またメディア・システムにおける光学あるいは電気と被写体(静止画/動画、不透明(紙など)/半透明(パラフィン紙など)/透明(フィルムなど)との関係性が、技術が変容するたびにどう変化したか、時代を追ってみていく。そのさい、1930年代はじめの日本独自の発明品である紙フィルムと専用映写機(レフシー、家庭トーキーなど)について国内外の専門家の協力のもとで調査し、当時最先端の機械工学・光学と印刷技術が集結した家庭用アニメーションが、アレンジが加わりつつも江戸期から変わらぬテーマを持ち、「手廻し」という前近代的なメカニズムを有している点についても掘り下げ、研究発表をおこなう予定である。 そして専門家の協力の下で視覚装置の光量調査比較をおこなうことで、暗闇に浮かび上がる被写体の光の明度と彩度の程度の違いが日本のアニメーション表現とその視覚体験にどのような影響を与えたのかについても明らかにしたい。
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