2022 Fiscal Year Annual Research Report
アンティル文学の言説をめぐる包括的研究―地方主義文学からポスト・クレオール性まで
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21J01188
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
廣田 郷士 早稲田大学, 法学学術院, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | アンティル文学 / アフリカ文学 / フランス語圏文学 / エコポエティック / イデオロギー / 文学史 / コロニアリズム / 人種主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、主に以下の三つのアプローチから研究を遂行し、研究成果を公表した。1)カリブ海文学におけるエコポエティック(環境文学)の諸相、2)フランス語圏文学史への批判的考察、3)アンティル諸島の地方主義文学の生成、以上の三点である。具体的にはそれぞれ、戦時期マルティニックで刊行された文化雑誌『トロピック』に現れるエコロジーとイデオロギーの交錯の解明、フランス語圏文学から世界文学へのパラダイム転換に関する批判的検討、及びオリュノ・ララ『アンティル文学と地方主義』(1913年)における「クレオール人」文学の形成過程の考察である。 『トロピック』をめぐっては、保守主義的イデオロギーとの逆説的な関係を明確化するため、近年研究の進むファシズムにおけるエコロジー思想の潮流を整理するととともに、フランス語圏の環境文学理論を用いて、『トロピック』誌のイデオロギー的戦略と文学的特徴を明らかにした。その成果は学会発表及び査読付き論文として公表した。また「フランス語圏」理念と「世界文学」観念を歴史化し、現代に隆盛を極めるこれら二つの概念を一旦留保に置くことで、フランス語圏文学の個々の作品と形式そのものの豊穣さが浮かび上がることを、学会講演の形で発表した。アンティル文学の地方主義については、先行研究では外来の視線を内在化しただけの「エキゾチック」文学として断罪されてきたその理念が、実際にはヨーロッパでもなくアフリカでもない「クレオール」としての人格と風土を文学の基調としておくことで、直後の「ネグリチュード」運動や「クレオール文学」への、忘れられた先駆的貢献として存在していることを突き止めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
おおむね当初の予定通り、研究成果の公表を進められているため。 当初予定していた研究のための海外出張は叶わなかったものの、それとは別の観点から国内で研究を遂行した。特に国内において進めたアンティルの地方主義文学をめぐる研究は、当初の計画以上の発見があり、引き続き発展させていく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、国際誌・国際学会での発表を目指すとともに、コロナ禍で実現できなかった海外での調査と研究打ち合わせを実施する。60年代から70年代のアンティルの独立運動と演劇との関係性をめぐっては、現地出版の書物の調査及び関係者からの聞き取り調査が必要である。また2000年代以降に活躍の目覚ましい現代作家の研究においても、作品の分析だけではなく作家へのインタビューも実施しておきたい。そのため、フランス及びアンティル諸島への一定期間の調査出張を行う予定である。 アフリカ文学研究に関しては、1950年代に誕生したフランス語によるアフリカ小説の総合的解明を進める。対象とする作家はモンゴ・ベティ(カメルーン)、ベルナール・ダディエ(コートジボワール)、シェイク・アミドゥ・カーン(セネガル)である。彼らの作品に現れる「移動」と「離脱」の主題と語りを主軸に、以降のアンティル小説との比較を進める。
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