2022 Fiscal Year Annual Research Report
ジャック・デリダにおける「声」の問題系のメディア・技術論的射程の研究
Project/Area Number |
21J21367
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
櫻田 裕紀 早稲田大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | デリダ / 声 / 自己触発 / 自伝 / 翻訳 / 憑在論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究はフランスの哲学者ジャック・デリダ(1930-2004)の脱構築思想に関する理論研究であり、その主眼は、著作が膨大にして各議論の射程も非常に多岐に渡るデリダの哲学に対し、その全体を見渡すことの出来る一貫した問題系として「声」あるいは「メディア(媒体=霊媒)」という問題系を採用し、従来しばしば強調されてきた「音声中心主義批判」という枠組みのみにはとどまらない、デリダの哲学が有する「声の思想」としての側面と、その哲学的射程とを解明することにある。 上記の研究を遂行するにあたり、2022年度は、昨年度まで継続的に精査を進めてきた論点である、カント哲学やフッサール現象学、そしてハイデガー存在論に立脚した〈現象学的-存在論的「自己‐触発」論〉という文脈に加えて、デリダ独自の〈翻訳の思想〉との関係から分析を行なった。デリダにおける「翻訳(traduction)」の問題は、それ自体独立した問題系として、他のトランスレーション・スタディーズや文学理論とも交差する重要な論点である。しかし本研究では、とりわけ〈声の複数性=多義性〉というモティーフを軸にデリダの翻訳論を再検討することで、60年代の著作から見られる「声」に対するデリダの一貫した眼差しが、とりわけ80年代以降に表面化していく「自伝」論や亡霊論、さらには「来たるべき民主主義」論といった問題群へといかに合流していくのかを確認し、デリダ独自の幽霊的「他者」の思想において、この「声」の問題がいかなる重要性を持つものであるかを、いっそう明瞭にすることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記の通り、本年度はデリダの「声」の問題系の哲学的射程に関する考察を、昨年度までの研究成果(現象学的-存在論的な自己-触発論に関する研究)に立脚しつつ、新たな論点(デリダにおける「翻訳」の思想の射程に関する研究)から分析を進めることができた点で、大きな成果があったと言える(この成果は学術雑誌(『思想』2022年8月号、岩波書店)への投稿によって公表を行なった)。 なお本年度は当初の研究成果に沿い、下半期はフランスにおける研究滞在(パリ高等師範学校)を実施し、資料収集を充実させつつ文献の精査を行なったため、研究成果の公表は上半期に行なった上記一点にとどまった。しかし現地における資料調査に基づく研究にはすでに着手しており、その成果は次年度に漸次発表していくことができるだろう。
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Strategy for Future Research Activity |
上記の通り、報告者は2023年7月までの期間は、昨年度から継続的に行なっているフランスにおける長期研究滞在の期間にあたるため、滞在中は引き続き資料収集や調査を進められるものの、帰国予定の7月およびその後の数か月のあいだは、諸々の手続きや身辺整理によって研究に一時的な遅れが生じることが予想される。したがって報告者は、次年度に遂行予定の研究内容にも部分的に着手し、学会発表や論文投稿による公表はおおよそ年度の前半期のうちに済ませることで、研究全体の進捗の滞りを最小限にするよう適宜スケジュールを修正する予定である。
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