2023 Fiscal Year Annual Research Report
ジャック・デリダにおける「声」の問題系のメディア・技術論的射程の研究
Project/Area Number |
22KJ2884
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
櫻田 裕紀 早稲田大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2023-03-08 – 2024-03-31
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Keywords | デリダ / メディア / メディウム / 憑在論 / 声 / 自己触発 / 自伝 / 耳伝 |
Outline of Annual Research Achievements |
2023年度は、初期デリダが狭義の現象学研究から「音声中心主義」批判などの「声」や「身体」にまつわる独自の問題系へと思想を拡張させていく思想的変遷に関して、とりわけデリダの思想形成において最重要の参照項の一つであるサルトル思想(とりわけその独自の「実存(existence)」の哲学)との関係から考察した。具体的には、デリダが修士論文『フッサール哲学における発生の問題』等で繰り返し強調する「実存」の概念が、単に狭義のフッサール現象学の内在的な読解から導き出されたものというより、むしろサルトルが『自我の超越』や『存在と無』で特異な仕方で規定した現象学理解を強く引き受けたものであること、さらには、その視点が単にサルトルの思想を無批判的に反復するものでさえない「脱構築」された「実存」概念であることを追跡し、この時期のデリダがしばしば「堅実なフッサール学者」として説明されてきたのに対して、他方で50年代・60年代の思想形成において、すでに彼がフッサール現象学を独自の問題関心へと積極的に拡張しようとしていた形跡を精緻に辿ることができた。 また上記の成果を踏まえ、年度の後半では近年刊行されたデリダの講義録『歓待Ⅰ』、『歓待Ⅱ』(未邦訳)の精査に取り組み、とりわけ晩年の「責任=応答可能性」の問いにおける「呼び声」の問題系との関係から、上記の主題と晩年の政治的な諸議論との理論的連続性を検討した。 以上の研究を通じて、デリダが初期から後期の著作にかけて一貫して問い続けた主題の成立過程と各議論同士の有機的な体系性が明確になり、とりわけ初期のエクリチュール論から中期以降の自(耳)伝や翻訳の問い、さらには後年の憑在論や来たるべき民主主義論に至るまで、デリダの著作全体を束ねる統一的な視座として「声」の問題系を位置付けることができたことは、本研究の大きな成果であった。
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Research Products
(3 results)