2021 Fiscal Year Annual Research Report
乳幼児における視線知覚と社会的学習の神経生理的関係
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21J00466
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
石川 光彦 同志社大学, 研究開発推進機構, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 視線知覚 / 乳児 / 脳波 / 報酬 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、乳児の社会的行動が報酬予測にもとづいているのかについて、脳波計測を用いて検討を行った。 これまでの研究から、乳児が他者の視線を追従する直前に、心拍が上昇していることが示されていた(Ishikawa & Itakura, 2019)。このような社会的行動直前の心拍の上昇は、他者と同じ物体に視線を向けることで得られる社会的報酬の期待を反映していると考えられた。しかし、心拍の上昇などの生理的覚醒は、報酬処理以外の要因によっても上昇するため、乳児にとって他者と同じ物体に視線を向けることが報酬的であるかは不明瞭であった。そこで、報酬期待を反映するとされている事象関連電位(ERP)である刺激先行陰性電位(SPN)について検討することで、他者と同じ物体に視線を向ける場面に対して乳児が報酬期待をみせるかを検討した。生後6から10か月児20名が参加した。乳児は、画面に提示される人物が視線を向けた方向に物体が提示される場面(一致条件)、または視線の反対方向に物体が提示される場面(不一致条件)を繰り返し観察した。条件ごとに異なる人物が提示されたため、繰り返しの観察学習をすることで、乳児は人物顔を手がかりに画面の人物が物体に視線を向けるかどうかを予測することができるようになると推測された。その結果、一致条件では、物体提示前に報酬期待を反映するSPN成分が、不一致条件よりも増加することが示された。この研究から、乳児は他者と同じ物体に視線を向ける場面について報酬期待を行っていることが示唆された。本研究は、現在国際学術誌にて査読中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度に購入した脳波計を用いて、乳児での社会的報酬予測について研究をまとめた。新型コロナウイルス感染拡大防止のため、対面での実験が中断される時期もあったが、データ取得・解析・論文執筆までを行ったため、おおむね順調に進展していると考えられる。 また、脳波研究のほかに、ロンドン大学バークベック校において、乳児の視線行動が行動価値に従っているのかについてのアイトラッキング実験を準備中である。これまでの研究から、乳児が報酬を得るために社会的行動を行っている可能性については示されてきたが、報酬を得るのと同様に、罰を避ける行動についても行動価値は高いことが考えられる。そこで、笑顔(報酬)、中立顔、怒り顔(罰)、の3つの顔から2つの顔ペアを繰り返し提示した際に、顔に対する乳児の注視行動が行動価値に従っているのかについて検討する。本研究は倫理審査済みであり、2022年度に速やかにデータが収集される見込みである。
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Strategy for Future Research Activity |
ロンドン大学バークベック校でのアイトラッキングデータによって、乳児の視線行動が、その行動の価値に従っているのかを検討することができる。ここでの行動の価値は、行動によって報酬を得られるか、または脅威や罰を避けることができる場合に高まるものである。令和3年度の脳波研究によって、乳児期においても、学習によって社会的報酬を期待することができることが示された。このように、乳児は日常での経験から行動の価値についての学習を行っていて、その行動価値によって行動を変調していることが考えられる。 ヒトの社会性について解明するにあたり、様々な場面に応じて適した社会的行動をどのように決定しているのかを明らかにする必要がある。今後は、乳児期からみられる報酬期待や行動の学習に着目して、文脈に合わせた社会的行動の調整メカニズムについて検討していく。 また、今までの研究では、社会的相互作用の中で得られる行動の強化子を社会的報酬として検討してきたが、食べ物や金銭など他の報酬を得られるような場面についても今後検討していくことで、社会的報酬特異的な認知処理や、行動の変調についても明らかになることが期待される。
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