2021 Fiscal Year Annual Research Report
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21J00607
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
藤田 優子 立命館大学, 衣笠総合研究機構, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 雑劇 / 戯曲 / 北曲 / 詞 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、中国の宋・元・明代における多様な韻文芸能の展開を明らかにすることである。ここでいう韻文芸能とは、韻文の歌唱と散文の語りもしくはセリフによって構成される演劇や講談などを指す。従来、個別の芸種・劇種ごとに検討されることの多かった韻文芸能であるが、複数の韻文芸能に共通する要素がしばしば認められることから、何らかの有機的結合を有していた状況が推察される。この状況を解明するためのアプローチとして、本年度は韻文芸能の一種である「雑劇」に着目し、賈仲名(1343-1422)の戯曲「蕭淑蘭情寄菩薩蠻」(以下「蕭淑蘭」)を中心に検討を行った。 雑劇は元代の歌辞文芸「北曲」の歌唱とセリフからなる演劇であるが、「蕭淑蘭」には南北両宋を中心に隆盛した歌辞文芸「詞」が登場し、物語の推進力となっている。南方系の文芸である詞を、使用する音韻体系の異なる雑劇に取り込む際に、いかなる工夫が施されたのかという問題を明らかにするため、複数のテキストを用いて韻文部分の校勘を行った。資料として明の新安徐氏刊『古名家雜劇』、臧懋循撰『元曲選』など複数の戯曲集を用い、明清期に刊行された詞話集・詞選集類も対象に加えた。こうした校勘作業に加え、戯曲と詞話との関係性についても調査を行い、実態の把握につとめた。 当初の計画では、複数の韻文芸能に共通して出現する楽曲についても調査を行う予定であった。この計画についてはやや変更を加え、詞と北曲という両種の歌辞文芸に共通して出現する楽曲「菩薩蠻」を対象として押韻の状況や句格の特徴などを比較し、一定の知見を得た。 以上の調査と並行して、所属する研究会において唐代の韻文芸能「変文」の解読を継続して行い共著訳注を発表したほか、共著「詞籍「提要」訳注稿(十一)」を執筆するにあたり、本研究の重要資料でもある『中原音韻』を取り上げ、明清期における受容状況について検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
課題として立てた二項目のうち、韻文芸能における楽曲の使用状況に関しては個別の楽曲の事例を検討するに留まり、当初予定していた俯瞰的な視点からの考察を行うに至っていない。このことから、進捗状況はやや遅れていると判断した。 ただし、戯曲「蕭淑蘭」を中心に行った分析では、雑劇の戯曲テキストにおける詞の扱いについて新たな知見を得ることができた。また、所属する研究会における活動とその成果である共著訳注三本は、本研究に多角的な視点を与えるという点で大きな意義を有するものである。本年度に取り組んだ作業の中には、想定より多くの時間を費やしたものもあるが、その結果はいずれも次年度以降の研究における基盤となることが確実視される。現段階での研究結果を踏まえ、調査を継続していきたいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度に行った調査の結果を踏まえて未発表部分の論文化を進めるとともに、戯曲・小説といった通俗文学作品を精査し、歌辞の異同や押韻の特徴などを手がかりとして考察を行う。調査は主に影印・排印・電子テキストなどを活用したテキスト比較によって進め、先行研究の蓄積を踏まえて結果を分析する。閲覧可能な版本については所蔵機関にて原本を確認したうえで複写もしくは撮影を行い、印刷したものをもとに詳細に検討する。 これに加え、韻文芸能の構成が通俗文学の様式に及ぼした影響についての調査を開始する。現段階では、叙述様式に顕著な類型化が認められる小説のプロローグ部分および戯曲の各幕冒頭部分を対象として、使用される楽曲や構成の方法などを検討したいと考えている。以上の調査から得られた結果を論文にまとめ、学会誌等に投稿する。渡航を要する資料調査に関しては、疫病流行の状況を鑑みて可能であれば行う。
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