2022 Fiscal Year Annual Research Report
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21J00607
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
藤田 優子 立命館大学, 衣笠総合研究機構, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 詞 / 北曲 / 雑劇 / 戯曲 / 芸能 / 韻文 / 歌辞 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は韻文の歌唱と散文の語り・セリフからなる「韻文芸能」の子孫、具体的には戯曲を取り上げ、テキスト間での歌辞の異同や形式の特徴などを比較分析することにより考察を行った。とりわけ重点的に取り上げたのが、明代初期の作と考えられている雑劇「馬丹陽度脱劉行首」(以下「劉行首」)である。元代を中心に流行した演劇である雑劇は、北曲の歌唱と散文の白(セリフ)とによって構成されるのが通常である。しかし実際には北曲のみならず詞や口上といった多様な韻文が挿入される例が珍しくない。雑劇「劉行首」の場合は第一折に二首の詞【柳梢青】が挿入され、劇中では二人の登場人物――済度を願う鬼仙と度脱を勧める道士――による唱和という体裁をとっている。 劇中で鬼仙の作とされる【柳梢青】第一首(天淡暁風明滅)は南宋の王明清撰『投轄録』の記事「張中孚」を初出として、複数の文献に小異を含む詞章が記録されている。詞章の異同状況を分析した結果、これらは句格にもとづいて二種類に大別でき、雑劇挿入詞の句格は金元の道教詞人の間で流行した体式と一致することが判明した。また、第一首に対する次韻の作として劇中に登場する第二首(度□〔人偏に尓〕個不生不滅)は、その原型が全真教道士らの詞曲を集めた『鳴鶴余音』に所収されており、やはり道教詞人との関わりが深いといえる。以上の状況を指摘したうえで、道士による民衆教化と歌唱・演劇との関わりの一端について論じたのが論文「雑劇における詞――度脱劇「劉行首」をめぐって――」である。 このほか共著論文としては唐代の語りもの芸能のテキスト、いわゆる「変文」の一種である「漢将王陵変」全篇の翻刻・訳注二本を発表した。これらは多様な韻文芸能の諸相を明らかにするとともに、唐代における芸能テキストの成立や用字意識を探るうえで重要な手がかりとなるものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
通俗文学作品に挿入された歌辞を対象として、諸テキスト間での異同状況を比較して一定の知見を得るとともに、調査結果を論文として公表することができた。調査の過程において宗教的済度をテーマとした度脱劇を扱ったことから、金元の道士たちと韻文芸能との関わりの重要性を改めて認識するとともに、道士たちの間で行われた詞曲受容の状況にも目を向けることができた。 また執筆と並行して、唐代の変文、宋代の調笑転踏、宋末元初の唱賺、金代の諸宮調、元代の雑劇といった各種歌辞文芸・韻文芸能について現存するテキストの解読作業を進め、その形式および表現にかかわる特徴の把握につとめた。これによって得られた結果は以降の調査研究に活かしていきたいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
宋詞の歌辞に唐詩の表現を踏まえたものが散見されるように、北曲や南曲の歌辞には詞の表現がしばしば踏まえられており、なかにはほとんど慣用句のようにして定着した事例も認められる。南北曲が詞の場合と異なるのは、こうした歌辞が語りものや演劇といった芸能のテキストとしても残存している点である。本年度は詞曲を通じて使用される表現や定型表現の使用状況を分析することにより、詞曲が重なり合う領域について調査を行いたい。加えて前年度までに行った調査内容のうち、未発表のものについて発表の準備を進める。調査は主に影印・排印・電子テキストなどを活用し、文献の内容を精査することによって行う。閲覧可能な版本については所蔵機関にて原本を確認したうえで複写もしくは撮影し、印刷したものをもとに詳細に検討する。得られた結果については口頭発表ないし学術論文として発表できるよう投稿の準備を行う。
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Remarks |
藤田優子著、武茜訳「《花草新編》小考――論分調本《草堂詩餘》的影響及《花草粋編》對其的繼承」(『中外論壇』2022年第4期掲載予定)
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Research Products
(3 results)