2021 Fiscal Year Annual Research Report
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21J40223
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
吉松 覚 立命館大学, 衣笠総合研究機構, 特別研究員(RPD)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 哲学 / 脱構築思想 / 生 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は主に20世紀後半のフランス思想における生の問題を、ハイデガー、ニーチェ、フロイトらのドイツ思想からの影響、ベルクソンをはじめとするフランス・スピリチュアリスムの批判的継承、そして同時代の科学からの影響を見据えて研究していくものである。そして、その延長線上に、現在カトリーヌ・マラブーが推進する可塑性の哲学、とりわけ『偶発事の存在論』『新たなる傷つきし者たち』『真ん中の部屋』における神経学や脳科学の哲学に接続を試みる。 当該年度は本研究の開始年度にあたり、大きく二つの研究業績を上げることができた。第一に、メルロ=ポンティ・サークルにて、カトリーヌ・マラブーの思想におけるメルロ=ポンティ読解についての学会発表を行なった。この発表では、20世紀後半のフランス哲学を彩ったメルロ=ポンティの思考と、現代のマラブーの思考の比較対照がなされ、本研究の基軸となる問題を提示することができた。後述する「今後の研究の推進方針」でも触れるが、この発表をしたことで、神経学の哲学および神経学と哲学の対話についての研究は、本採択課題に関した重要性を持つだろうということがわかった。第二に、フランスの精神分析家による自閉症者への臨床の記録を共訳し、出版した。現代の実践における精神分析と〈生と死〉の関係を論じた本書の出版で、さまざまな専門家からご意見を頂戴し、研究の指針となった。当該年度の研究からは、神経学と精神分析という、狭義の哲学とは異なる分野と、現代のフランスの哲学の取り結ぶ関係についてのさらなる研究の深化の必要性が明確になった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」欄でも示したように、カトリーヌ・マラブーの思想についての学会発表を行なった。この発表ではマラブーによるモーリス・メルロ=ポンティの『知覚の現象学』の神経学的読解を俎上に載せた。マラブーのメルロ=ポンティ読解は十分な正当性があるとは言い難いが、他方で現代の神経学や脳科学の知見をフランス現象学的身体論に接続したという点では意義深いものである。加えて、マラブーの思想に関しては、少なくとも日本においては十分な研究の蓄積があるとはいえない状況であることに鑑みても、この学会発表を通じて、研究計画を構想していたときに想定していた以上の更なる進展が期待できる。当初予定していた発表も遂行し、それと並行して翻訳書も出版できた。順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
カトリーヌ・マラブーのメルロ=ポンティ読解については、論文化をするべくブラッシュアップをはかっている。また、この発表の論文化の過程で、ショーン・ギャラガーなどの神経学の哲学や、ジャン=ピエール・シャンジューなど哲学と対話を行なった神経科学者、脳科学者の思想についても関心を抱くようになった。これを踏まえて、今後はこうした思想をさらに読解していくことで、マラブーの神経学の哲学を相対化して哲学史の文脈に位置付けることを試みていく。また、『自閉症者たちは何を考えているのか』の出版を機に、現代における精神分析の理論と実践についてもさらに知見が広がった。今後はこの神経学とフランス精神分析の双方を基軸に、課題に関わる研究を進めていく。
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