2022 Fiscal Year Annual Research Report
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22J00494
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
川口 成人 立命館大学, 衣笠総合研究機構, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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Keywords | 室町時代 / 文芸史料 / 都鄙関係 / 大名 / 大名被官 |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度は、大名・大名被官の都鄙にわたる政治的・文化的動向の個別研究として、以下の4点に取り組んだ。 ①土佐国大忍荘における大名・大名被官の動向の確定 室町時代の都鄙関係に関する重要な事例として、土佐国大忍荘(高知県)の大名・大名被官の動向について検討した。オーテピア高知図書館にて古文書写真・郷土史文献を収集し、関係文書の花押・年次比定の検討を進めた。加えて、土佐国・大忍荘の研究を牽引する地元の研究者の案内のもと、荘園故地を中心に現地調査を実施できた。以上により、通説とは異なる大名・大名被官の動向を明らかにした。一部、検討の余地が残る文書の年次を確定し、早急な発表を目指したい。 ②細川氏当主の系譜関係の再検討 ①で扱う細川氏について、従来看過されてきた文芸史料を用いて再検討するとともに、当主の系譜関係を確定した。この成果は受入研究者主催の研究会で発表しており、次年度の公表を準備している。 ③細川氏の刀剣注文の検討 かつて発表した論文「大名被官と室町社会」(『ヒストリア』271号、2018年)で利用した史料に含まれていた、細川氏の刀剣注文を検討した。その結果、室町時代の刀剣文化・美術品管理の一端を明らかにすることができた。この成果は、就実大学吉備地方文化研究所主催のシンポジウムにて発表したほか、京都府立京都学・歴彩館主催の府民講座でも講演し、一般に向けて発信した。 ④戦国時代の畿内と九州の交流に関する新史料の検討 出張した2022年度古文書学会大会古文書見学会にて、戦国時代の畿内と九州に関する交流を示す未翻刻文書の存在を知った。当初の計画にはなかったが、当該文書は上記①の研究とも関連することから、戦国時代の九州政治史を専門とする窪田頌氏(九州大学)と共同で史料紹介に向けてオンライン研究会・原本調査を実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画していた研究のうち、上記①は文書の年次比定に、②は一部の史料解釈に検討の余地が残ったため、年度内に論文を発表することはできなかった。しかし①は地元の研究者の案内による現地調査の機会を得て、②は受入研究者主催の研究会での報告によって、それぞれ内容を深めることができた。 また、上記③④は当初の研究計画にはなかったが、③は文化史・美術史研究に大きく寄与しうるものとして、④は畿内と西国の政治的関係という点で①とも関連するものとして、それぞれ発展的に研究を進めることができた。 さらに、史料調査を進めるなかで、典型的な在地領主としてみなされてきた武士の、京都での恒常的な文芸活動を示す史料をみいだせた。この史料自体は早くから紹介されてきたものの、歴史学分野では全く活用されていない。しかし、文芸史料の活用によって新たな室町時代都鄙関係論の構築を目指す本研究にとっては、絶好の史料といえる。次年度以降、継続して分析を進めていく予定である。 なお、このほかに本研究の調査・研究成果を含む内容を一般向け書籍に寄稿し、上記③の内容は一般向けの講演にて成果を発信することができた。 以上の研究状況を総合的に勘案して、本研究課題はおおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度は2022年度の実施状況を踏まえ、以下のとおり研究を進める。 (1)前年度に実施した研究の論文発表 上記①~④の研究について、論文および史料紹介の執筆を進める。いずれも一部に検討の余地を残しているので、適宜補充調査を実施しつつ速やかな発表を目指したい。 (2)地方文芸と京都文芸の関係解明 室町時代の都鄙の文芸交流を考える上では、比較的情勢の安定している京都周辺と、戦乱の続く遠国地域という地域差を踏まえる必要がある。そこで次年度は、歌僧・連歌師と武士の師弟関係の形成について、列島各地の政治史を意識しながら検討する。対象は、上杉禅秀の乱・永享の乱・結城合戦・享徳の乱と内乱が続いた東国を中心とする。特に、この地域は、近年政治史・文化史双方の研究が充実しており、本研究開始後に刊行された論考や史料集も多く存在する。これらの成果を積極的・批判的に摂取しながら、研究を進める。京都文芸の実態解明については、【現在までの進捗状況】で触れた、在地領主とされてきた武士の京都での恒常的な文芸活動を示す新史料も積極的に活用していきたい。 なお、当初の研究計画では、(1)(2)の研究を個別に発表した後、(3)文化的側面を組み込んだ室町時代都鄙関係論の構築を目指す予定だった。しかし、2022年12月に日本史研究会中世史部会からの依頼で、2023年10月に開催される日本史研究会大会の共同研究報告を担当することになった。全国から多くの研究者が参加する、非常に重要な機会であるため、成果発表の計画を変更することにした。(1)の個別研究についての論文執筆と並行しつつ、現時点での(1)(2)の成果を集約して大会報告に臨み、自説の是非を問うこととしたい。
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