2022 Fiscal Year Annual Research Report
草の根の公共性に関する人類学的研究:マニラにおける交通インフラと労働者の事例から
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22J01026
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
西尾 善太 立命館大学, 衣笠総合研究機構, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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Keywords | 公共性 / ギグワーカー / インフォーマル性 / フィリピン / 東南アジア労働者 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、配車アプリ労働者のアソシエーションの実態を明らかにし、ジープニー労働者に関する研究とあわせ、多種のアソシエーション間の連鎖から生じる開かれた公共性の生成プロセスを解明する。具体的には、交通インフラの統治が再編する過程として配車アプリの導入を分析(課題A)し 、この新たな統治装置の外部で労働者が組織するSNS上のアソシエーションを、その「インフォーマル性」に着目しながら考察を行う(課題B)。配車アプリのドライバーは、デジタル・ プラットフォームと生活世界を横断しながら扶助や情報共有を目的とするアソシエーションを 数多く形成しており、規模も目的も異なるアソシエーションの連鎖がつくり出す連帯と運動をフィールド調査から明らかにする(課題C)。以上、3つの課題を踏まえ、本研究は交通イン フラで生じる草の根の公共性を解き明かす。 2022年度は、基礎的な文献調査によって東南アジアにおける配車アプリに関する文献を集め、ひろく採取主義の文脈から整理をおこなった。これによりギグワーカーを新しい職種ではなく、継続する植民地主義の現在形として理解することが可能となった。ラテンアメリカやイタリアにおける研究群は、フィリピンにおける労働形態を分析するうえで非常に示唆に富むものであった。この視点を踏まえ、2023年1月から2月かけてフィールド調査を実施した。とりわけ、フードデリバリーのギグワーカーの組織化についてインタビュー調査からコロナ禍によって爆発的な成長遂げたこのサービスは、フィリピン全土の各都市に広がり、同時に異なる都市においてユニオンの結成が徐々に進んでいる。外出規制の緩和に伴い、ギグワーカーへの報酬が引き下げられたことが組織化の主要な要因だったことが明らかになった。2022年度の計画であった課題Aを中心としながらも2023年度に実施する課題Bの一部にも着手することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2022年度は、第一に基礎的な文献調査、第二に一ヶ月のフィールド調査を実施することができた。 第二の点について、ギグワーカーを積極的に組織化・ユニオン化しているSentro ng mga Nagkakaisang at Progresibong Manggagawa(Centro: 団結と進歩的な労働者のセンター)とのネットワークを形成した。Centroへのインタビューから、イロイロ市、ジェネラルサントス市、パンパンガ州などの地方都市の組織化を第一として、徐々に首都圏へと影響力を高めていく方策のため見送られていることが明らかになった。一方で、ジープニーセクターについても、2023年3月に大規模なストライキが実行され、それによって大統領ならび関連する政府機関との交渉が進んだ。コロナ禍を経て日常的なモビリティがイシューとして一般の人々にも認識されるようになり、公共交通機関とデリバリーサービスは、ポストコロナにおいて非常に政治的な関心が高まる領域を形成している。 さらに、2022年度には、ジープニーにかんするブックレットを風響社から出版し、現代フィリピンにかんする共同研究を花伝社から出版した。前者は都市交通にかんする概要を一般の方にもわかりやすく論じ、後者は配車アプリとも関連するフィリピンにおけるグローバリゼーションの状況を整理した。後者については、編者として2010年代にフィリピンでフィールド調査をおこなってきた多様な論者の議論を包括したものである。これによって、2010年代のフィリピンに対する総観を得ることができ、本研究が着目している2010年代末期からコロナを経た2020年代の社会的、政治的な変容を詳細に検討することが可能となった。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は、1ヶ月間のフィールドワークで必要としていたギグワーカーの組織とコネクションを形成することができた。そのため、2023年度は、8月と2024年2月にそれぞれ3週間から1ヶ月の調査を計画している。この調査から組織化の原理だけでなく、ギグワーカーたちがどのようなイシューを経験しているのかを参与観察とインタビュー調査から明らかにしていく必要がある。 また、GrabFoodやFoodPandaなどのフードデリバリーは、グローバル企業であり、前者については東南アジア史上もっとも高い経済価値を持つ企業となっている。こうしたグローバル企業の急激な成長がどのようにギグワーカーから労働力を抽出しているのかについてより理論的な検討が必要なっている。とりわけ、この急成長は、コロナ禍によるライフスタイルの変化に企業が介入することで可能となった。東南アジアで400以上の都市でサービスを展開するこれらの企業のビジネスモデルを明らかにし、さらには東南アジアのさまざまな都市間でつくられつつあるギグワーカー間のトランスローカルなネットワークについても検討していく必要性がある。
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