2022 Fiscal Year Annual Research Report
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22J23324
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
戸塚 史織 立命館大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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Keywords | 浮世絵 / 役者絵 / 勝川派 / 歌舞伎 / 情報人文学 / デジタルアーカイブ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、従来十分に研究活用されて来なかった勝川派浮世絵の内「役者絵」を用い、歌舞伎史上の一つの頂点とされる天明期歌舞伎の芸の実態解明を目的とする。天明期歌舞伎は元禄期や文化文政以降と異なり台本・筋書等が少ない一方、役者絵が豊富に残る。同時代の第一次資料といえる役者絵は、歌舞伎の身体表現を視覚的に記録する手法を多く確立した勝川派によるもので、新資料基盤となる見込みがある。しかし勝川派役者絵は、世界各地に数千枚規模で拡散して存在しており、正確な年代考証や作品研究が進んでおらず、これが天明期歌舞伎研究の足枷となっていた。 そこで本年度は国内外諸機関の役者絵をデジタル化することで収集する①勝川派役者絵研究環境整備を行い、年代考証をはじめとする②勝川派役者絵作品調査に重点的に取り組むことで、大量の資料と情報を扱う本研究の基盤構築に取り組むこととした。 まず①のため図録やインターネットを通じて公開されている資料を収集すると共に、国内外の所蔵機関を訪問し、役者絵や役者絵と関係の深い作品のデジタル化に取り組んだ。これにより資料の蓄積とデータベース拡大が達成された。この①の蓄積を基に②を行った。年代考証に加え、落款等役者絵自体が包含する情報と、番付等の歌舞伎関連資料と組合う情報をデータベース上で蓄積し、一資料の情報量を格段に増加させた。これを通して落款一覧や当期の極印の状況等も明らかになり、この成果については既に報告した内容に加え、複数の発表準備がある。 更に役者絵と類似性が高い絵が多く見られる絵本番付の絵の蓄積や、「絵」のみならず「文字」情報をも活用していくため計量的分析手法の導入についても検討し、情報蓄積に着手した。 上記活動により大量の資料と情報を扱う本研究の基盤構築が達成され、今年度の目標は達成されたものと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の研究活動全体としては、文理融合的な研究プロジェクトや他機関での調査に積極的に参加する中で、多様な研究・調査手法についての知見を得ることができ、それを自分の研究に繋げることができた。特に、コロナ禍以降中断されていた海外機関での調査を経て、多様な機関・研究者との交流が深まり、今後の調査の可能性を広げることができた。また、国際学会に参加し、今後自分の研究成果を発信する場について貝体的なイメージを持つことができた。 研究内容としては、まず優先的に解消すべき不足点を詳細に検討し、①役者絵作品の収集不足、②考証済作品の不足、③「文字」情報活用方法の検討不足、④役者絵以外の「絵」情報の収集不足があることを確認し、これらを補うことに注力した。 結果、図録等からの収集により①を、拡充された作品を対象に追加の考証作業を行うことで②を解消した。この①②については年度当初本年度の目標としていた大量の資料と情報を扱う本研究の基盤構築そのものであり、この点で本年度の目標は達成されたと考えることが出来る。 また③については評判記に着目し、計量的分析手法も取り入れる方法について一定の方針を固め、実践にも取り組んだ。また絵本番付と役者絵には非常に類似した役者の姿が多いことに注目し、絵本番付の絵を蓄積することで④の解消を目指した。 しかしながら、上記のような多岐に亘る内容に一挙に取り組み、蓄積作業に労力を注いだ結果、年度内に成果をまとめきることができず、数としては十分な発表ができなかった。来年度は今年度の蓄積と研究の成果を発表する機会を積極的に捉える必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、国内外諸機関の役者絵をデジタル化することで収集する①勝川派役者絵研究環境整備を行い、年代考証をはじめとする②勝川派役者絵作品調査により研究の基盤を作る。その上で役者絵を取り入れ③役者絵と歌舞伎興行の関係分析、④天明歌舞伎の実態検証を行い、天明歌舞伎の芸の実態を明らかにすることを計画している。 今年度は、前年度の①②の成果を基盤としつつ、引き続き役者絵のデジタル化と調査を行うことで情報の更なる充実を図る。前年度交流を持った国内外の機関における調査も最低一回は実施する予定である。こうして蓄積してきた資料と情報を基に、本年度は③の内容を中心に具体的な分析に取り組むことを目指す。 ③は要素別に資料を抽出・整列し分析するもので、役者絵と歌舞伎上演出版物の関係分析や、出版の傾向調査によって、役者絵と歌舞伎興行の関係実態を明らかにする。これにより歌舞伎研究における役者絵の資料的価値も確認できる。この分析では役者絵考証に加え、前年度蓄積した評判記と絵本番付の情報も活用することにより、役柄・演目・役者等のテーマ毎に論文執筆をシリーズ化できる見込みがある。この方法論を確立し、更なる成果に繋げたい。 前年度の反省点の一つは数としては十分な発表が実現できなかった点である。これを受け、本年度はまず、前年度の研究と蓄積により既に採択された発表(極印について)と用意がある論文(勝川派絵師落款について、評判記の形態素解析について、極印について)を前期中に発表することを目指している。上記の取り組みにより、今年度は積極的に発表の機会を捉え、研究成果を数としても残すことを目標とする。
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