2023 Fiscal Year Research-status Report
ポストゲノム医療の時代における「遺伝情報」の位相と課題に対する社会学的考察
Project/Area Number |
22KJ3038
|
Allocation Type | Multi-year Fund |
Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
丹上 麻里江 立命館大学, 社会学研究科, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2023-03-08 – 2025-03-31
|
Keywords | 遺伝 / 環境/milieu / 多様性 / 生政治論 / 生命と社会 / アガンベン / ゲノム / 社会思想・社会哲学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は人を新たな形で差異化する今日の遺伝概念を軸に、人の自己存在の問題と社会との関わりについて検討するものである。2年目は課題達成への意義の再検討と理論整理、文献および資料調査をさらに進め、それらの結果、改めて全体の構想を組み直し、本課題において到達すべき意義の深化と充実を図った。これまでは遺伝にまつわる知の今日的体系を素描したうえで、主にそれと社会との関係に照準し、関連する諸概念や議論、たとえば遺伝的多様性や遺伝子化論といった小テーマごとに主題化し、理論的土台を耕し国内学会にて口頭発表を行うとともに、フィールドワーク、一次資料の収集と解析、歴史の批判的分析作業や国内外における研究の第一線へのアプローチ等を進めた。それらのうえで現時点での見立てとしては、フーコーーアガンベンに強調される生政治論とその継承にかんする批判的再検討が、継続してきた研究作業に加えて不可欠であることを再認識するに至った。 今日、不確実性をともないつつ社会における雄弁性を高める遺伝概念だが、それは人にとっての自然と文化とのあいだを構成する蝶番にも位置する。その意味では、たしかに、自然科学の探究がその対象に設定していることと、今日の人文科学や社会科学が主題化することとを比べるとあまりにバランスを欠いてきたようにも思われるが、たとえばフーコーにおいても、またアガンベンにおいても、単体で主題化されたり前景化されずとも、生政治論的視座の着眼とその根底には遺伝の概念が重要なものとして存在していた。その重みについて改めて考察する必要がある。しかし他方で生政治論は図らずも新型コロナ渦においてその理論的・実践的意義の再検討が迫られてきたという諸相も強めている。これらも横目に睨みつつ、とりわけ現代世界の認識論の地平にかんして「存在論的係留」の問題として遺伝のコードを問うたアガンベンの思想にもより照準を合わせていく。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2年目は初年度の実績のうえで、分析作業を進めるなかで、全体の構想を大幅に組み直すに至った。その過程では膨大な資料・文献等の解析や再考察を要した。そのため、学術論文として発表することがずれ込んだため。
|
Strategy for Future Research Activity |
最終年度への成果結実に向けて、上述した理論整理を継続するとともに実践的探究も並行させながら、遺伝概念を軸においた研究の全体をとおして、人の存在をめぐる近現代の知の本質、生政治論の意義と今後の展開可能性、人文・社会科学の知の変遷とその内実、それらを背景とした現代社会における生のありようについての分析を進め、学位請求論文執筆とともに国内外への成果の発信を行っていく。本研究は一見すると学術的な理論構築が第一の目的であるようにもみえる。じっさいにも、生をめぐる状況と議論の読み直しについて人文・社会科学の歴史と照らす作業にも力点を置いている。当然重要な目的だが、同時に現代社会、とりわけ今日およびこれからの社会への重要な処方箋たりえる研究であることを何よりの目的としている。今世紀にとりわけスローガンとして提唱されつつ批判の渦中にもおかれる多様性の理念は文化や人種から、生物、神経、脳、遺伝等へ、述語を拡大させながらも人はその真意をつかめずにもいる。多様性と社会性とをめぐる問題系に学術の立場から示唆を与えうる知見を構築すべく追究を継続し成果発信を行う。
|
Causes of Carryover |
国外での現地調査および学会発表等を予定していたが、分析作業と構想の再構築に時間を要し最終年度にずれ込んだため。最終年度では海外学会への応募も含め計画を進めている。
|