2022 Fiscal Year Annual Research Report
自閉症者の刺激の時間情報処理に関する柔軟性の低下と事象間の因果知覚の頑健性
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21J01032
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | National Rehabilitation Center for Persons with Disabilities |
Principal Investigator |
金子 彩子 国立障害者リハビリテーションセンター(研究所), 国立障害者リハビリテーションセンター(研究所), 特別研究員(PD) (50916129)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 自閉スペクトラム症 / ASD / コミュニケーション / 時間 |
Outline of Annual Research Achievements |
時間に関する知覚は、事象間の因果関係や連続性の理解や他者とのコミュニケーションに重要な役割を持つ。時間の知覚は常に一定であるよりも変化しやすいことが知られており、非同時な視・聴覚刺激であっても繰り返し提示されることで、刺激間の時間差に順応し、同時だと感じる点(主観的同時点)が移動する。したがって、円滑に外界の状況を理解するために、人は情報の時間に関する処理のスタイルを柔軟に変化させていると考えられる。一方で、そのような時間差への順応は自閉スペクトラム症(ASD)者では起こりにくいことが報告されている。このことから、ASD者の適応性の個人差には時間情報処理の動的な変化の生じにくさが関係すると予想した。本研究では、ASD者における知覚的な時間情報処理に関する変動の生じにくさが、外界の状況の理解を阻害する一因となるかを検証することを目的とした。 令和4年度は前年度に引き続き、言語コミュニケーションにおける時間処理様式として発話速度の知覚についての実験を実施した。実験参加者に様々な発話速度の音声刺激を提示し擬似的な会話を行なってもらった。実験参加者自身の発話速度を測定し、また各音声刺激に対する速度感と親しみの印象を回答を求めた。現在のところ、ASD者は定型発達者と比べて発話速度が遅く、また疑似的な会話相手となる音声刺激の発話速度に同調して自身の発話速度を変化させる程度が小さい傾向が示された。今後はさらに多くの実験参加者からのデータをもとにこれらの傾向が維持されるか確認し、ASD者は他者との会話における時間の知覚とコミュニケーションの難しさとの関係性を明らかにすることを目指す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和4年度は、言語コミュニケーションにおける時間処理様式として発話速度の知覚に着目し、令和3年度より実施している実験に引き続き取り組んだ。他者との言語コミュニケーションを円滑に行うため、発話の速度を会話相手の発話速度に同調して変化させることが知られている。そのような現象が生じるためには、時々刻々と変化する他者の発話の速度を知覚し、またそれによる会話相手への印象や自身の発話速度を柔軟に変化させることが必要だと考えられる。この点を検討するため、実験参加者に様々な発話速度の音声刺激を提示し、擬似的な会話を行ってもらった。音声刺激の発話速度感と実験参加者自身の発話速度、さらに音声刺激の発話速度による親しみやすさの印象の変化を測定した。現在までに、定型発達者10名、自閉スペクトラム症(ASD)者5名のデータを取得した。ASD者は定型発達者と比べて発話速度が遅く、また疑似的な会話相手となる音声刺激の発話速度に同調して自身の発話速度を変化させる程度が小さい傾向が見られた。これらのことから、ASD者は他者とのやりとり場面で、柔軟に時間処理を変化させづらい可能性があること、またそのことが円滑なコミュニケーションを難しくさせる一因である可能性があることが示唆された。 また、ASD者をコミュニケーションと感覚の特徴から分類するべく質問紙調査を実施しており、ASD者の中ではコミュニケーションに関する症状と感覚に関する症状の重さが共通している群もいれば、そうでない群もあり、症状の現れ方には個人差が大きいことが示された。この成果はJournal of Autism and Developmental Disorders誌に掲載された。 以上のように、研究を進め一定の成果が得られているため、おおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
令和4年度に実施した言語コミュニケーション場面における時間処理様式に関する研究を進め、さらに多くの実験参加者からのデータを取得し、上述のような傾向が頑強に現れるか検討する。また、人の発話音声よりも単純な刺激を用いることで低次な時間処理について検討することを目指す。具体的にはディスプレイ上に2つ白い円を時間差をつけて提示し、その時間差への順応を行う。これにより、時間差順応による主観的同時点の移動の生じやすさを定型発達者と自閉スペクトラム症(ASD)者で比較し、質問紙で測定するASD傾向の強さとの関連を検討する。以上の研究を通して、ASDのコミュニケーションの困難さと時間処理様式の変動の生じにくさとの関係性を明らかにすることを目指す。
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