2021 Fiscal Year Annual Research Report
化石爬虫類の古生態を復元する新指標の構築:現生種の感覚器及び脳形態の定量解析
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19J40062
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | National Museum of Nature and Science, Tokyo |
Principal Investigator |
山下 桃 独立行政法人国立科学博物館, 標本資料センター, 特別研究員(RPD)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2024-03-31
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Keywords | 鞏膜輪 / 現生爬虫類 / 水中視 / 暗所視 |
Outline of Annual Research Achievements |
鳥類を含む爬虫類の眼の中には,鞏膜輪と呼ばれる輪状の骨組織が存在する.鞏膜輪の大きさや形態は昼行性・夜行性といった日周活動,陸生・水生のような生息環境によって異なることが知られている.鞏膜輪は化石としても残り得る眼の中の唯一の骨組織であり,化石爬虫類の生活様式を探るための有力なツールとして注目されている.しかし,トカゲ類,カメ類,鳥類において共通した構造である一方で,鞏膜輪の形態と生活様式の関わりについては,これらの分類群間での比較がなされていない.本研究では異なる分類群間において,それぞれの生活環境に適応していく中で,鞏膜輪にどのような形態変化が起こっているのかを明らかにした. 昼行性・夜行性を含むトカゲ類,完全水生・半水生・陸生を含むカメ類,昼行性・夜行性および陸生・半水生を含む鳥類について,液浸標本もしくは骨格標本をCTスキャン撮影し,鞏膜輪の3次元データを取得した.鞏膜輪を構成する鞏膜骨の断面形態および鞏膜輪全体の形態を計測し,分類群間で比較した. 鞏膜骨の断面形態はトカゲ類,カメ類,鳥類の分類群間で有意な差があり,3つの分類群で異なる鞏膜骨を持つことが示された.一方で鞏膜輪全体の形態を比較すると,鳥類はカメ類・トカゲ類に比べて内側に凹んだ鞏膜輪を持ち,またトカゲ類は鳥類・カメ類に比べて柱状の鞏膜輪を持つという差が見られたものの,他の点については分類群間では有意な差が見られず,全体的に夜行性の種は立体的な,昼行性の種は平面的な鞏膜輪を持つ傾向にあり,さらに陸生種は膨らみもしくは凹みのある鞏膜輪を,水生種は平坦な鞏膜輪を持つ傾向があることが示された.これらの結果より,鞏膜輪を構成する鞏膜骨の形態には,分類群における系統的制約が強く働いている一方で,暗所視や水中視など特定の環境下で利用される眼については,分類群をまたいで同じような形態変化が起こっていると考えられる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより海外渡航が制限され,計画していた研究を予定通りに遂行することができなかった.しかし,国内での標本調査を勢力的に行い,カメ類を中心とした標本データを大幅に増やすことができた.国立科学博物館・筑波研究施設に導入されているX線マイクロCTスキャナーを十分に活用し,鳥類,カメ類,トカゲ類の鞏膜輪の形態を比較し,分類群間で視覚機能及び生活様式と鞏膜輪の形態の関係がどのように異なるかを明らかにした.在籍する国立科学博物館内の複数の研究部や他の博物館の研究員と連携して,それぞれの分類群を専門とする研究者との意見交換も活発に行い,多岐にわたる分類群を含めた議論を行うための土台を築くことができた.これにより,来年度以降行う予定である,トカゲ類の頭部のCTスキャン撮影と解析,他分類群との比較を円滑に進めることができると期待される.
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Strategy for Future Research Activity |
今後はトカゲ類に焦点を当て,視覚・聴覚・嗅覚に関する神経系の復元指標の構築と生活様式との関係性を明らかにしていく.化石爬虫類の感覚器官および神経系の復元指標構築に向けて,神経孔と脳神経系のサイズの相関性の有無を明らかにするために,国立科学博物館を拠点に,標本の収集と各感覚器及び脳神経系の観察・計測を行う. 神経孔のサイズについては,現生トカゲ類の液浸標本の頭部のCTスキャンによって得られた形態データから画像解析ソフト Amira,Osirixを用いて孔の3次元構築を行い,視覚・嗅覚・聴覚に関わるそれぞれの孔の径を計測する.軟組織については,1%ルゴール溶液もしくは 2.5%リンモリブデン酸を用いて標本を染色したのちにCTスキャン撮影することで,形態データを得ることができる.現生トカゲ類の液浸標本について硬組織を撮影した後に染色・CTスキャン撮影し,得られたスキャンデータから脳の各領域(視葉・嗅球・小脳)の再構築と体積の計測を行う.これらの脳の各領域の大きさと各神経孔の大きさを比較して,関係性の有無を明らかにする. 標本の入手については,在籍する国立科学博物館や他の国内外の博物館に収蔵されている標本の借用,動物園からの譲渡などを予定している.また,トカゲ類の5系統すべて(ヤモリ類,スキンク類, カナヘビ類,オオトカゲ類,イグアナ類)を網羅して復元指標を構築することを目指す.生活様式についても,異なる活動時間,生息環境,採餌様式の種を含めたデータの収集を行い,さらに潜水行動や滑空行動のような行動様式も含め,それぞれの生活様式と各感覚器との関係性について比較できるようにする.
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