2022 Fiscal Year Annual Research Report
ハンチントン病原因蛋白質の凝集機構とアルギニン誘導体による凝集阻害機構の理論研究
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22J01617
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Center for Novel Science Initatives, National Institutes of Natural Sciences |
Principal Investigator |
谷本 勝一 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(新分野創成センター、アストロバイオロジーセンター、生命創成探究, 生命創成探究センター, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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Keywords | 神経変性疾患 / ハンチンチン / ポリグルタミン / アミロイド / タンパク質凝集 / 凝集阻害 / 分子動力学シミュレーション / 拡張アンサンブル法 |
Outline of Annual Research Achievements |
異常伸長ポリグルタミン(polyQ)鎖をもつ変異ハンチンチン(mHTT)は神経細胞内に凝集し、ハンチントン病を引き起こすことが知られている。本研究では、mHTTの凝集メカニズム、mHTTの凝集をアルギニンとそのエステル誘導体が阻害するメカニズム、及びアミノ酸の中でアルギニンだけがmHTTに対する凝集阻害効果をもつ要因を、理論的に解明することを目的としている。2022年度は、アルギニンによるmHTTの凝集阻害メカニズムを解析する上で基礎となる、polyQ鎖に対するアルギニンの凝集阻害メカニズムの解明のためのシミュレーション研究に取り組んだ。系として、1.polyQ鎖のみを含む水溶液系、2.polyQ鎖の周囲にアルギニンを多数配置した水溶液系、3.polyQ鎖の周囲にリジンを多数配置した水溶液系の三種類作成し、分子動力学シミュレーションを行った。シミュレーション手法には拡張アンサンブル法の一つであるレプリカ置換法を適用した。 polyQ鎖の分子内βシート構造の形成確率を計算したところ、対象とした三種類の水溶液系の間に明確な差は見られなかった。一方で、polyQ鎖と接触するアルギニンまたはリジンの個数を計算した結果、アルギニンの方がpolyQ鎖と接触する個数が多いことが分かった。この結果は、アルギニンは他のアミノ酸よりもpolyQ鎖の近傍に多く存在することでpolyQ鎖が他のpolyQ鎖と相互作用するのを防ぎ、凝集を阻害していることを示唆している。さらに、polyQ鎖とアルギニンまたはリジンとの間に形成される水素結合について解析したところ、アルギニンの方が多くの水素結合をpolyQ鎖との間で形成し、なおかつ、二つのアミノ酸の側鎖の構造の違いが水素結合の数の差に大きく影響を及ぼしていることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2022年度は、ハンチントン病原因タンパク質の凝集メカニズム解明のためのシミュレーションは実行できなかったが、アルギニンによるmHTTの凝集阻害メカニズムを解析する上で基礎となる、polyQ鎖に対するアルギニンの凝集阻害の分子論的メカニズムを解明することができた。この成果により、ハンチントン病を引き起こす原因タンパク質の凝集に対するアルギニンの阻害メカニズムの理解に向けて大きな進展が得られた。以上のことから、進捗状況を「おおむね順調に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
mHTTのオリゴマー形成メカニズム、及びアルギニンがmHTTのオリゴマー形成を阻害するメカニズムの解明のためのシミュレーションを実行する。オリゴマーの最も簡単なモデルとしてmHTTのダイマーを対象とし、ダイマーのみを含む水溶液系、ダイマーとアルギニンを含む水溶液系、及びダイマーとリジンを含む水溶液系に対する分子動力学シミュレーションを実行する。得られた結果をpolyQ鎖の結果と比較して、mHTTの凝集に対するアルギニンの阻害効果のメカニズム、及びmHTTの凝集メカニズムを明らかにする。
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