2022 Fiscal Year Annual Research Report
キタムラサキウニにおける呈味成分蓄積メカニズムの解明
Project/Area Number |
22J00254
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Fisheries Research and Education Agency |
Principal Investigator |
高木 聖実 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 水産資源研究所(釧路), 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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Keywords | キタムラサキウニ / アミノ酸 / 呈味 / リアルタイムPCR / RNAシーケンシング |
Outline of Annual Research Achievements |
RNAシーケンシング(seq)解析を用いた網羅的な遺伝子発現量解析によりキタムラサキウニ消化管および生殖巣で機能するアミノ酸合成経路を特定した。また、食物条件間でアミノ酸転換酵素遺伝子の発現量を比較した。 ウニ生殖巣の遊離アミノ酸組成に及ぼす影響が異なる3種の食物を各々キタムラサキウニに与える飼育実験を行い、腸と生殖巣からRNAを抽出した。試料の一部はRNAseq解析に供し、de novoアセンブリによりトランスクリプト配列を推定した。近縁アメリカムラサキウニのゲノム情報との相同性検索を行った結果、両体部位では、ウニ生殖巣の呈味に関わり、食物条件により生殖巣における含有量が変化する6種のアミノ酸の合成と分解に係る23の転換酵素遺伝子が発現していることがわかった。 得られた配列を元に各発現遺伝子のプライマーを設計し、リアルタイムPCRによる発現量測定系を確立した。各処理群の遺伝子発現量を雌雄別に測定したところ、生鮮ナガコンブを与えたウニでは、雌雄共に腸において、生鮮コンブに多く含まれるGluと生殖巣の甘味に寄与するAlaの転換に関わるアラニンアミノトランスフェラーゼの発現量が他区より高かった。また、腸と生殖巣に共通して、AlaをGlyへ転換するアラニン-グリオキシル酸トランスアミナーゼの発現量が他区より低かった。したがって、生鮮コンブ給餌により生殖巣のAla含有量が増加するのは、腸でGluからAlaへの転換が促進され、さらに生殖巣に至るまでAlaの分解が進みにくいためだと推察された。また、生殖巣の苦味に寄与するMetやValの増加が報告されている乾燥ナガコンブや魚粉飼料を与えたウニの雌では、これらのアミノ酸の合成や分解に寄与する酵素遺伝子の発現量が高いことがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度は、当初の研究計画に従ってウニ生殖巣の遊離アミノ酸組成に及ぼす影響が異なる食物をキタムラサキウニに与える飼育実験を行い、RNAseq解析によりキタムラサキウニの消化管および生殖巣で発現する遺伝子を網羅的に調べ、本種の両器官で機能するアミノ酸合成経路を特定した。そして、ウニ生殖巣の呈味に関わり、食物条件により生殖巣での含有量が変化するアミノ酸の合成と分解に係る転換酵素遺伝子を対象に、リアルタイムPCRによる発現量測定系を確立した。 リアルタイムPCRによる発現量測定の結果、生鮮コンブ給餌により生殖巣のAla含有量が増加して甘味が増強するのは、腸でGluからAlaへの転換が促進され、さらに生殖巣に至るまでAlaの分解が進みにくいためだと示唆された。また、ウニ生殖巣の苦味を増強させると報告されている食物を与えたウニでは、苦味を呈するアミノ酸の合成や分解に寄与する酵素遺伝子の発現量が高いことがわかった。当該年度は当初の予定通りに研究を進めることができ、ウニ体内で生じるアミノ酸転換過程の一部が詳らかになった。食物条件でウニ生殖巣の呈味成分組成が変化する仕組みの解明が大きく進展したと判断し、上記のような進捗状況とした。
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Strategy for Future Research Activity |
今後、令和4年度に測定を終えていない遺伝子を対象に、同年度の飼育実験で得られたウニ消化管および生殖巣のcDNAを用いてリアルタイムPCRによる発現量解析を行う。また、同飼育実験に用いた食物の全アミノ酸および一般成分分析と、飼育前後のウニ生殖巣の遊離アミノ酸分析を行う。分析により得られたデータと、飼育実験時に取得した摂餌量、生殖巣重量を元に摂取アミノ酸量と生殖巣へのアミノ酸蓄積量の関係を推定する。さらに、アミノ酸添加飼料を用いた飼育実験による検証を通して、生殖巣に呈味アミノ酸が蓄積する仕組みを詳らかにし、各アミノ酸の理想的な摂取量を明らかにする。
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