2022 Fiscal Year Annual Research Report
群体性珪藻の連鎖形成機構の解明:粒子サイズ可変餌料の開発へ向けて
Project/Area Number |
22J00804
|
Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Fisheries Research and Education Agency |
Principal Investigator |
山本 慧史 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 水産技術研究所(南勢), 特別研究員(PD)
|
Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
|
Keywords | 走査型電子顕微鏡 / 微細藻類 / 効率培養 / RNA-seq |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は群体性珪藻の連鎖機構の解明を通じ,粒子サイズを随意に変えられる新しい餌料生物の開発を目指すものである。本年度はその第一段階として,鎖状連結部の微細構造を非破壊的に観察するための走査電子顕微鏡(SEM)用試料の作成を試みた。三重大学生物資源学部伯耆助教のご指導の下,ポリリジン溶液を塗布したスライドガラス上に自然沈降によって藻体を張り付け風乾させる方法を用いて非破壊的に観察試料を作成することに成功した。当初はその後,SEMによる観察試験を繰り返し実施する予定であったが,所属機関に設置されていたSEMが老朽化を理由に撤去されたため,本試験の実施は次年度以降に繰り越しとなった。従って,代わりに次年度に予定していたRNA-sequence解析による連鎖機構関連遺伝子の探索試験を進めている。本年度は,その準備段階としてRNA-sequence解析に供する珪藻の種類,および刺激として与える培養環境について選定を行った。連鎖形成効率の観点で,いくつかの環境変化を与えた培養試験を実施した結果,光照射を全く与えない暗条件と100 PFDほどの明条件の間に,連鎖形成率において顕著な差が得られた。また,解析対象種としてはSkeletonema costatumが培養安定性や公開データベース上での遺伝子情報の豊富さの点で優れていると考えられた。これらのことから,次年度では明暗条件下で培養した本種についてRNA-sequence解析を行い,連鎖形成に関連する遺伝子の特定を試みる予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度の実施計画では,SEMによる珪藻類の鎖状連結部の観察試験を繰り返し実施する予定であったが,所属機関に設置されていたSEMが故障および老朽化により撤去されたため,本試験の実施は次年度以降に繰り越しとなった。なお,次年度以降に使用する代替のSEMについては,所属機関外の組織に使用承諾を依頼している。上記の試験が実施できなかった代わりに,次年度実施予定であったRNA-seq解析を前倒しして進めており,次年度以降の準備が滞りなく進んでいるものの,顕著な成果が得られていない点からやや遅れていると判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
次年度は公開データベース上における遺伝子情報が充実しているSkeletonema costatumおよびThalassiosira sp.を対象としたRNA-sequence解析を実施し,連鎖形成に関連する遺伝子の特定および制御機構の解明を試みる。Skeletonema costatumを用いた培養試験の結果,当初の想定通り物理刺激の少ない静置培養の方が曝気培養と比較して一個体群あたりの細胞連鎖数が多い傾向にあったが,同じ静置培養同士であっても明暗条件の違いにより,有意に連鎖数が異なることがわかった。この差が単に増殖率の優劣によるものか珪酸殻の強度等の構造上の違いによるものかを判断するためには,電子顕微鏡による微細構造の観察に併せて関連遺伝子の発現挙動を観察する必要がある。一方,微細藻類の窒素同化活動の指標として,硝酸態窒素トランスポーターnrt2の発現を観察することが有効であることが知られている。珪藻類にとって必須栄養素であるケイ素の取り込みを担う遺伝子としてケイ酸トランスポーター(sit)が知られているが,異なる栄養環境下における本遺伝子の発現変動を観察することで,nrt2と同様,sitをケイ酸同化の遺伝子マーカーとして使用できるかもしれない。次年度はこの仮説の可否について調査し,さらにsitと連鎖形成の関連性についても検討する予定である。
|