2022 Fiscal Year Annual Research Report
細胞死を指標にしたエドワジエラ属細菌感染に有効な免疫賦活剤選抜法の開発
Project/Area Number |
22J01346
|
Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Fisheries Research and Education Agency |
Principal Investigator |
森本 和月 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 水産技術研究所(南勢), 特別研究員(PD)
|
Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
|
Keywords | 細胞死 / カスパーゼ / エドワジエラ / ヒラメ / E. piscicida |
Outline of Annual Research Achievements |
エドワジエラ属細菌(Edwardsiella piscicidaおよびE. anguillarum)は、幅広い魚種に感染し、養殖業に甚大な被害を与える。本研究は、エドワジエラ属細菌感染時にどのような種類の細胞死(パイロトーシス、アポトーシスまたはネクロトーシス)が誘導または抑制されているのか、それらにより制御される自然免疫応答について明らかにし、エドワジエラ属細菌感染に対する生体防御機構について解明することを目的として実施した。 2022年度の実験においては、各種細胞死の制御に関わるシステインプロテアーゼのカスパーゼファミリー遺伝子をヒラメゲノム情報から探索した。中でも哺乳類においてアポトーシスを制御するカスパーゼ3に着目し、活性を有するヒラメのカスパーゼ3(casp3aおよびcasp3b)組換えタンパク質を作製した。これら組換えタンパク質の加水分解活性を、哺乳類の各種カスパーゼに対する合成基質を用いて測定したところ、2種類のカスパーゼ3は共に哺乳類のカスパーゼ3と同様の基質であるZ-DEVD-MCAを強く加水分解した。このことから、ヒラメの2種類のカスパーゼ3は哺乳類と同様の基質加水分解活性を持ち、アポトーシスを誘導する分子であることが示唆された。次に、E. piscicidaの生菌またはホルマリン死菌(FKC)をヒラメに腹腔内注射し、その24時間および48時間後に腎臓より白血球を単離し、Z-DEVD-MCA基質を用いて細胞溶解液におけるカスパーゼ3の活性を測定した。E. piscicida生菌接種後24および48時間後の腎臓白血球におけるカスパーゼ3の活性は、対照区およびFKC接種区と比べて有意に低かった。以上のことから、E. piscicida感染によりヒラメ腎臓白血球由来カスパーゼ3活性は低下し、アポトーシスが抑制されることが推察された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2022年度に、アポトーシスの指標として2種類のヒラメのカスパーゼ3(casp3aおよびcasp3b)に着目し、活性を有する組換えタンパク質を作製することができた。また、これらの2種類のカスパーゼ3は哺乳類のカスパーゼ3と同様の基質特異性を有し、アポトーシスを誘導する分子であることを示すことができた。さらに、E. piscicidaの生菌またはホルマリン死菌(FKC)をヒラメに接種した際の腎臓白血球におけるカスパーゼ3の活性は、対照区およびFKC接種区と比べて有意に低くなることを明らかにし、E. piscicida感染時にアポトーシスが抑制される可能性を見出すことができた。これらの研究成果は2022年度日本魚病学会秋季大会で発表した。また、その他のカスパーゼの組換えタンパク質の作製や活性の測定も順次進めており、これらの分子と種々の細胞死の関連性について明らかにするための材料が整いつつある。エドワジエラ属細菌感染時におけるカスパーゼファミリーの活性化を指標にした細胞死の種類判別について、今後も研究の発展が期待できることから、本課題はおおむね順調に進展していると判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
2022年度に引き続き、エドワジエラ属細菌感染時における種々のカスパーゼの活性化を指標にした細胞死の種類判別を行い、2023年度からはエドワジエラ属細菌感染に関連する細胞死により制御される自然免疫機構の解明を行う。 まず、種々の細胞死を人為的に誘導し、これらがエドワジエラ属細菌の感染抑制に結びつくかを調べる。具体的には、人為的に細胞死を誘導した試験魚の白血球培養上清を、無刺激の白血球に添加し刺激する。刺激した白血球にエドワジエラ属細菌を感染させ、細胞内への寄生および増殖の割合を顕微鏡観察や細菌数から評価する。評価結果を基に、どのような細胞死を人為的に起こせば本菌の感染抑制が生じるかを解析する。 次に、細胞死により制御される自然免疫を明らかにするために、細胞死により細胞外に放出された分子が宿主の自然免疫機構に与える影響について調べる。まず、人為的に細胞死を誘導した試験魚の白血球培養上清を、無刺激の白血球に添加する。培養上清添加後にどのような自然免疫応答が生じたかを、RNA-seqによる免疫関連遺伝子群の網羅的発現変動解析や貪食活性試験から解明する。 細胞死関連分子の発現や活性などを指標にして免疫賦活剤の選抜法の確立にも挑戦する。試験魚の白血球に既知の免疫賦活剤等を添加し、細胞死関連分子の発現やその活性がどのように変動するかを調べ、本菌の感染防除に重要な細胞死を誘導する免疫賦活剤を特定する。特定した免疫賦活剤を実際に試験魚に投与し、エドワジエラ属細菌を用いた感染試験を行う。その後の生残率および組織中の細菌数から免疫賦活剤の効果を評価する。
|