2022 Fiscal Year Annual Research Report
戦間期のポーランド共和国(1918-39 年)における言語政策の研究
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22J00039
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
貞包 和寛 上智大学, 外国語学部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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Keywords | 社会言語学 / 言語政策 / ポーランド / 戦間期 / 民族的少数者/マイノリティ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、戦間期ポーランド(1918-1939 年)で実施された民族的少数者に対する言語政策を研究するものである。戦間期ポーランドに関する事象は歴史学などで頻繁に取り上げられるテーマであるが、言語政策論の分野ではいまだ先行研究に乏しく、法律文書にもとづく実証的研究が求められる。今年度は本研究の基礎資料である書籍や法令文書の翻訳が進捗し、その一部を外部に公開することができた(下記 [1] から [3])。また、本研究と間接的に関係する業績として、現代ポーランドの少数者問題をテーマとする以下の論文を刊行した(下記 [4])。
[1] 日本言語政策学会第 24 回大会口頭発表(2022 年 6 月 18 日、京都大学、題目:[資料紹介]T・オルシャィンスキ『クレスィの辺境 スタニスワヴフ未だ滅びず』2016 年) [2] 北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター公開セミナー(2022 年 9 月 1 日、北海道大学、題目:戦間期ポーランドの言語政策に関する基盤研究 いわゆる「クレスィ諸法」を中心として) [3]『上智ヨーロッパ研究』14 号特集論文(2023 年 3 月 5 日、上智大学、題目:戦間期ポーランドの「クレスィ諸法」について 第一次世界大戦後の国際秩序の枠組における少数者保護) [4] 『スラヴ学論集』 22 号論文(2022 年 5 月 31 日、日本スラヴ学研究会、題目:The Silesian Problem in Poland through the Prism of the Monitoring Cycles of the Framework Convention for the Protection of National Minorities: Comprehensive Analysis from the First Cycle to the Fourth.)
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の目標であった「クレスィ諸法の日本語訳公開と分析」を達成することができたため、「おおむね順調に進展している」とした。以下に、今年度の業績の内容を記すことで進捗状況の報告とする。業績に付す番号 [1] から [4] は、上記「研究実績の概要」に付す番号と一致する。
[1] 1929 年にポーランドに生まれた著者が戦間期当時を回想するポーランド語資料の紹介を行った。本資料では、当時の民族的少数者についても一定の記述が割かれている。したがって、本研究の目標を達成するために紹介が必要な資料である。 [2] 戦間期ポーランドの言語政策に関する先行研究はそれほど多くなく、研究の基礎が未だ十分に整備されていない。そのため今年度は、法律文書の日本語訳から取り掛かった。その結果、クレスィ諸法に属する三つの法律(国家語法、法務言語法、学校法)の日本語試訳と分析を上記セミナーで公開するに至った。 [3] 上記 [1] と [2] の成果を統合し、上智大学ヨーロッパ研究所紀要『上智ヨーロッパ研究』14 号に特集論文を投稿した。同論文では、戦間期のポーランド共和国がどのような国際条約に拘束されていたかを概観した上で、クレスィ諸法それぞれの条文を分析した。その結果、「クレスィ諸法は必ずしも少数者に融和的な政策ではなく、むしろポーランド語以外の言語の使用に厳しい制限を設けていた」という結論が得られた。 [4] 現代ポーランド最大の少数者であるシロンスク人をめぐるポーランド政府と欧州評議会の間の公式文書を分析し、シロンスク問題の焦点が時代とともにどのように揺れ動いてきたかを明らかにした。同論文は現代ポーランドを対象とするものであり、戦間期ポーランドを対象とする本研究とは時代が異なるものの、ポーランドの「少数者観」が歴史的にどのように構築されてきたかを検証するための基盤研究となりうるものである。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究における課題として、以下の 2 点を挙げる。 第一に、クレスィ諸法以外の少数者に関する法律の翻訳・分析作業が挙げられる。2022 年度の研究では、クレスィ諸法に属する三つの法律(国家語法、法務言語法、学校法)の日本語訳と分析を行うことができたが、これら以外の法律については、公開に至るまでの分析を進めることができなかった。戦間期ポーランドは当時のヨーロッパ最大の多民族国家であり、施行された少数者関連の法律も多く存在する。クレスィ諸法以外の法律を分析することで、クレスィ諸法が関連の諸法律とどのような体系を成していたかが明らかになるであろう。 第二に、ポーランドにおけるアーカイブ調査が挙げられる。戦間期の法律関連文書については、そのほとんどをインターネット上のアーカイブで閲覧することができるが、当時刊行された新聞、雑誌などにも少数者関連の情報は多い。これらの資料は電子化されていないものが多く、現地の図書館・文書館において紙媒体の資料に当たる必要がある。こうした資料を精査することで、戦間期ポーランドにおいて少数者がどのように捉えられていたか、また、少数者自身はどのような発信を行っていたかが明らかになるであろう。
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