2022 Fiscal Year Annual Research Report
20世紀における学術ネットワークの展開とアジア・太平洋戦争における大量死問題
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22J00547
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Senshu University |
Principal Investigator |
加藤 真生 専修大学, 文学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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Keywords | 軍医 / 陸軍 / 近代化 / 社会史 / 医療 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、主に明治期における軍事医療関係史料の収集と分析を中心に研究を進めた。特にこれまで活用されてこなかった日本各地に存在する軍医個人史料の発掘に力を入れた。収集した軍医個人史料は階級の低い軍医や上長官軍医のものなど、幅広く集めることができたため、明治期における日本陸軍衛生部の様相を様々な角度から検証することが可能であった。 筆者は、収集した軍医個人史料をもとに、明治期における日本陸軍衛生部の補充・教育制度について検討した。日本陸軍衛生部の補充・教育制度に関する先行研究は、主に制度の変遷について丹念に整理してきた。しかし、制度下における軍医の具体的な行動や日本社会における医師の存在形態とキャリアの在り方などとすり合わせて日本陸軍衛生部の補充・教育制度を構造的に把握する試みはなされてこなかった。このため筆者は、収集した軍医個人史料を分析し、一般医師たちがなぜ日本陸軍衛生部に出仕したのか、制度下の軍医たちはどのような感情のもとで勤務していたのかなど、社会史的観点から日本陸軍衛生部の補充・教育制度について捉えなおし、制度が維持し得た背景について究明した。 この結果、医師たちは、衛生部を学習費用が不要な遊学先とする認識を共有しつつ、各個人が保有する自己実現欲‐医学研究欲、愛国心、社会階層移動欲、徴兵回避‐を満たすために日本陸軍衛生部に出仕していたことを明らかにした。また、制度下の軍医たちは(とりわけ日清戦争以降)、勤務を通じて医師としての実力とキャリアを向上させられる点で自己の医師としての欲求を満たすことができ、そうした成長欲が衛生部の近代化を実現することになった重要な要素であったことを明らかにした。本研究は2022年10月22日に専修大学歴史学会大会で報告し、『専修史学』(74)に「明治期日本陸軍衛生部の補充・教育制度の社会史」として発表することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初想定していた軍事医療関係史料を順調に収集することができ、期待していた内容のデータを得ることができた。受入教員やゼミ参加者からの積極的に助言を仰ぎつつ、論文として発表することができたため、おおむね順調に進展していると考えられる。 また、2022年度は調査の過程で、本研究にかかわりつつも、独立した新しい大きな研究テーマに広げられることが期待できる軍事医療関係史料に出会うことができた。この点に関しては2023年度以降検討していく予定である。この意味でいえば、当初の計画以上に研究が進展していると評価できるだろう。
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Strategy for Future Research Activity |
既述の通り、2022年度には重要な史料‐医薬品とその動員に関するもの‐を発見することになった。この史料からは現在筆者は専門とする軍事史や医療史を超え、さらなる分野にわたる議論が要される。しかし、本研究で課題とする「大量死」の歴史的背景に追及においては重要な問題になると考えている。このため、今後の研究の推進にあたっては、従前の研究計画や学振PD申請時点で言及しなかった、医薬品と陸軍の関係に注目した調査と研究も進めることとしたい。 このテーマは、これまで検討してきた学術ネットワークの問題とも大きくかかわるものであり、かつ組み合わせることでより斬新な歴史像を打ち出すことが可能であると考える。このため、二つの研究テーマを並行して進めつつ、得られた成果をすり合わせながら、より優れた研究成果を発表することとしていきたい。そのためにも史料調査に関してはより積極的に臨んでいく。
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