2022 Fiscal Year Annual Research Report
対称ビスカルベンを用いた規則正しく配列するランタノイド単分子磁石の表面上での合成
Project/Area Number |
22J00418
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
田中 慶大 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 特別研究員(PD) (90965360)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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Keywords | 単分子磁石 / カルベン |
Outline of Annual Research Achievements |
単分子磁石は超高密度記録媒体の開発につながるため魅力的な分子材料であるが、表面上での単分子磁石の研究はあまり進んでいない。主な理由として、バルクで合成した単分子磁石を基板上に蒸着させることが難しいこと、単分子磁石の磁性が基板表面との相互作用によって変化してしまうことがあげられる。そこで、これらの問題を回避するためにあらかじめ単分子磁石を表面上で合成するというアプローチをとる。具体的には、両端にN-ヘテロ環状カルベンという配位サイトを持つ分子(以下ビスカルベン)を用いて、一方を基板に配位させ、もう一方を単一金属原子の蒸着サイトとし、金属錯体を組み上げていく。本年度は、目標とする金属錯体の土台となるビスカルベンの合成と金属基板表面への蒸着に着手した。合成に関して、我々はビスカルベンを安価な市販の原料から6段階で十分供給できる新しい合成法を開発した。蒸着に関しては、窒素で充填されたグローブボックス中で化合物をクヌーセンセルに導入し、短管、真空ゲートバルブで封じ込めることで、空気中では不安定なビスカルベンをSTMのプレパラティブチャンバに導入することができ、金属基板表面にビスカルベンを蒸着させることに成功した。従来、カルベンの蒸着では二酸化炭素によってマスクされたもの、もしくはイミダゾリウム炭酸水素塩を加熱することで系内でカルベンを発生させるという方法がとられるが、副生成物となる二酸化炭素や水も基板表面に蒸着する可能性は否定できず、これらは単一原子、特に酸素原子に好んで配位するランタノイド分子にとっては致命的である。我々の手法では副生成物が出ないため、ビスカルベン上での反応をより正確に制御できるという点で意義がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
分子の合成が当初予定していた通りにいかず、予想以上に時間がかかってしまった。以下に具体的な理由を述べる。 1)当初はモデル化合物の合成に報告されている合成方法をそのまま使用する予定であったが、再現することが困難であり、新しい合成法を考える必要があった。 2)二酸化炭素とビスカルベンの反応がうまくいかず、空気中でも安定なカルベン前駆体を調製することが出来なかったため、カルベンをクヌーセンセルに導入する方法と、蒸着条件下での化合物の安定性の調べ方を工夫する必要があったから。
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Strategy for Future Research Activity |
1年目でイソプロピル基を窒素上の置換基として持つビスカルベンを合成し、Au(111) 上に蒸着させることに成功したので、適切な探針を用いることで分解能の高いSTM像を得ることを最初の目標とする。さらに、微分コンダクタンスを測定し、分子のHOMO、LUMOに関する情報を得、探針増強ラマン散乱分光(TERS)を用いることで、ビスカルベンが基板に対して直立していることを確認する。次に、被覆率が高くなるような条件で分子を基板上に蒸着させ、アニーリングの条件を最適化することで、ビスカルベンの自己組織化単分子膜を得る。もし、自己組織化膜が得られない場合は、Ag(111) など、他の金属基板を用いて調製を試みる。得られた単分子膜に関して77KでのSTM像の時間変化を観察することで表面上での流動性を評価する。得られたビスカルベン単分子膜を極低温まで冷却し、ランタノイド原子を蒸着させることで、全てのカルベン上にランタノイド単原子が配位した均質な単分子膜を形成させ、STM(イメージング、微分コンダクタンス測定)により確認する。ランタノイド原子の配位によるNHCのラマンスペクトルの変化をTERSによって調べる。
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