2021 Fiscal Year Annual Research Report
緩和ケア従事者の死のとらえ方に対する心理的介入の試みー時間的展望に着目してー
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21J10892
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
宇野 あかり 東北大学, 教育学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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Keywords | 緩和ケア / 看護師 / ターミナルケア / 時間的展望 |
Outline of Annual Research Achievements |
わが国では近年緩和ケアへのニーズが急激に高まっているが,緩和ケア従事者が死にゆく患者への関わりから受ける心理的負担は大きく,メンタルヘルスの不調やケアの質の低下に繋がることが指摘されている。こういった問題に対し,これまで医療従事者の死のとらえ方の観点から多くの検討がされてきた。本研究では,死のとらえ方に加え,新たに効果が見込まれる時間的展望の視点も取り入れた上で心理的アプローチをしていく。時間的展望は人生の見通しを示すものであり,この視点は終末期患者との関わりという体験に新たな意味づけを促すことが期待できる。以上を踏まえ、本研究では,死のとらえ方と時間的展望の観点から緩和ケア従事者のメンタルヘルスに寄与する新たな心理的アプローチのあり方を検討することを目的とする。 令和3年度は,緩和ケアに従事する看護師を対象として,ターミナルケア態度に関連する要因について死のとらえ方や時間的展望を中心に検討するために,すでに実施していたアンケート調査の結果を量的に再分析した。その結果,どのような死のとらえ方であっても,適応的な時間的展望を有しているほど,ターミナルケア態度の積極性が増すことが明らかになった。これらの結果については,査読付き論文である『OMEGA - Journal of Death and Dying』に投稿し採択された。 また,緩和ケアに従事する看護師を対象に,時間的展望理論を応用した終末期患者に寄り添うことを支援するプログラムを考案し,その効果検証を行った。その結果,プログラムに参加することでターミナルケア態度の向上や,関連する要因の前向きな変化が見られ,一定の有効性が示された。これらの結果は,学会や論文等で順次発表する予定である。 加えて,前年度までに実施した本研究の全体構想に含まれる質的調査や文献調査の研究結果について論文執筆を行い,雑誌に投稿し掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初は,緩和ケア看護師に従事する看護師に対して新たにアンケート調査を実施し,そのデータ分析および論文執筆までを行う予定であった。しかし,次年度以降の新型コロナウイルス感染拡大の状況が見通せないことから,研究遂行が可能と判断される時期に研究を前倒しして行うこととし,次年度以降の計画であった介入研究の一部についても令和3年度中に実施する流れとなった。 そのため,本来計画していたアンケート調査については,すでに収集していたデータの再分析といった,計画の一部変更を行った上で実施した。再分析の結果から,緩和ケアに従事する看護師への理解や支援において,本研究で中心的に扱っているテーマ時間的展望の視点が有効であることを明らかになり,その後の研究に繋がる重要な知見を得ることができた。 また,次年度に予定していたプログラムの効果検証のための介入研究に関しては,全て自宅で取り組むことができる形式に工夫した上で,介入群に対して実際に実施することができた。プログラムに参加していない統制群との比較によってプログラムの有効性が示唆されたが,対象者の確保の難しさから当初想定していたデータ数を集めることはできなかった。従って,令和4年度においては,対象者を拡大してのプログラムの実施や,プログラムの長期的な効果の検討が必要である。
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Strategy for Future Research Activity |
令和4年度においては,夏頃までに,前年度に実施した研究内容をまとめ,論文として国内外の雑誌に投稿する。 また,介入プログラムの長期的な効果の検討のために,前年度に実施した対象者に対して継続的に追跡調査を実施する。加えて,前年度の実施では想定していたデータ数を確保することが難しかったため,対象者を拡大して実施することで,その効果をより精査していく予定である。 可能であれば,後半以降の時期において,これまで検討が不十分であったと考えられる緩和ケアに従事する看護師のターミナルケア態度に関連する「外的要因」についても量的に検討することとする。
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