2023 Fiscal Year Research-status Report
隕石の高精度年代測定に基づく小惑星ベスタでの大規模衝突の検証
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22KK0229
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
羽場 麻希子 東京工業大学, 理学院, 助教 (30598438)
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Project Period (FY) |
2023 – 2025
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Keywords | 高精度U-Pb年代測定 / ジルコン / HED隕石 / 集積岩ユークライト / Nb-Zr相対年代測定 / ルチル |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度はHED隕石のジルコンの高精度U-Pb年代分析およびNb-Zr相対年代測定のための試料準備および実験手法の確立を行った。まず、HED隕石のジルコンの高精度U-Pb年代分析の試料に関しては、これまでに一般的に用いられてきた玄武岩質ユークライトだけでなく、集積岩ユークライトも用いることとした。これは、地殻上部由来を考えられる玄武岩質ユークライトだけでなく、その下部に存在したと考えられている集積岩ユークライトの年代学的情報を得ることで、HED隕石母天体の地殻形成や変成、衝突史を広範囲で復元することを目的としているためである。集積岩ユークライトは玄武岩質ユークライトと比較して不適合元素に乏しいため、ジルコンは存在しないと考えられてきた。しかし,研究代表者が開発したHED隕石からの難溶性鉱物の化学的分離法を実施したところ、複数の集積岩ユークライト(Tirhert, NWA 11247, NWA 11455)からジルコンを発見することができた。また、これらの集積岩ユークライトは全てTi鉱物のルチルを含んでいることが確認された。ルチルはNb-Zr相対年代測定に最も適した鉱物であるが、これまでにHED隕石での発見は報告されていなかった。これらの集積岩ユークライトでのジルコンおよびルチルの発見は、本研究課題で目的とする高精度U-Pb年代分析およびNb-Zr相対年代測定を可能にすることが大いに期待される。 また、初年度に予定していた四重極ICP-MS(東工大所有のiCAP TQ)によるNb/Zr元素比測定法の立ち上げも行った。標準岩石試料BHVO-2およびTiO2標準物質(NIST 154c)において報告値と誤差範囲で一致する結果が得られ、元素比に伴う誤差は約1%(2RSD)であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は申請書に記載した初年度の実施事項を全て行うことができたため、本研究はおおむね順調に進展していると評価した。初年度は次年度渡航先研究機関で分析を行うための試料を調整することや分析手法の確立が主な目的であり、全て達成することができた。また、渡航先への短期滞在も行い、次年度の研究がスムーズに進むように実験手法の確認や研究の議論も行うことができた。一方で、初年度予定していた表面電離型質量分析計の10^13Ω検出器の購入は見合わせた。これは、国内在庫が枯渇していることに加え、円安の影響で価格が高騰したためである。検出器の購入に関しては、次年度渡航先研究機関の情報も踏まえて判断する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は共同研究機関のスイス連邦工科大学チューリッヒ校(ETH Zurich)に渡航予定である。本年度準備したHED隕石試料を持参し、高精度U-Pb年代分析およびNb-Zr相対年代測定を行う予定である。ジルコンの高精度U-Pb年代分析およびNb-Zr相対年代測定に関しては、すでに渡航先研究機関と共同研究を行っているため、これまでに確立した方法で分析を行う予定である。また、渡航先研究機関が所有する表面電離型質量分析計(TIMS)は研究代表者が所属する東工大所有のTIMSを同じものであるが、検出器部分がアップグレードされている。この装置のアップグレードに関しても、将来的に東工大所有のTIMSのアップグレードを念頭に情報収集する予定である。今回新たに測定する予定の集積岩ユークライトのジルコンの年代はこれまでに報告されている玄武岩質ユークライトをどのように異なるのかを明らかにし、HED隕石母天体(小惑星ベスタ)の形成史に新しい情報を提供する。一方で、Nb-Zr相対年代測定に関しては、渡航先研究機関のMC-ICP-MSを用いてZr同位体比測定を行う予定である。これに関しても、今回HED隕石で初めて発見されたルチルがどのような年代を提示するのか明らかにし、HED隕石母天体の時空間的広範囲の熱史の復元を試みる予定である。
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