2013 Fiscal Year Annual Research Report
迎賓館赤坂離宮天井絵画修復事業に関わる損傷と劣化原因の解明
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23240114
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Research Institution | Tokyo National University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
木島 隆康 東京藝術大学, 大学院美術研究科, 教授 (10345340)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
桐野 文良 東京藝術大学, 大学院美術研究科, 教授 (10334484)
上野 勝久 東京藝術大学, 大学院美術研究科, 教授 (20176613)
佐藤 一郎 東京藝術大学, 美術学部, 教授 (30143639)
山梨 絵美子 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, その他部局等, その他 (30170575)
林 洋子 京都造形芸術大学, 芸術学部, 准教授 (30340524)
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Project Period (FY) |
2011-11-18 – 2015-03-31
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Keywords | 文化財保存修復 / 保存科学 / 油彩画修復 / 天井絵画 / 建造物壁画 / 絵画技法材料 / 迎賓館赤坂離宮 |
Research Abstract |
本研究は、迎賓館赤坂離宮天井絵画を自然科学的手法によって調査し、修復の二次災害も含め、劣化損傷した要因を究明しようとするプロジェクトである。3年目にあたる平成25年度に実施した調査研究の成果を報告する。現地調査は月2回平均で実施し、昨年度と同様あるいはそれ以上の面積を行うことができた。調査した部屋は、27・30・31号室(壁面合計約80㎡)、加えて、通称≪花鳥の間≫とよばれる大広間の22号室(108㎡)の半分ほど、つまり50㎡を終え、総計約130㎡実施した。撮影は、超高精細デジタル撮影による正常光撮影、赤外線反射撮影、紫外線蛍光撮影による詳細な現状記録を行うとともに目視による現状観察も行った。撮影では昭和45年に行われた夥しい修復処置の様子を前年度と同様明確に捉えることができた。特筆すべきは、昨年度導入した超高精細デジタルカメラ、赤外線カメラ、高出力の紫外線灯によって、大幅な質の向上がはかられデーター量として同じ面積比で4倍にも達する緻密さである(機材は自前で揃えた)。旧修復箇所の特定では曖昧さのない明確な画像を得た。さらに、絵具の分析では、絵具微小試料片を採取し、クロスセクションを作成、光学顕微鏡下の観察およびSEM-EDXによって色のことなる絵具種を同定した。加えて、これらの分析結果と目視観察も含め、予定の本天井絵画の技法と材料をまとめた。本天井絵画は前々年度と前年度の調査によってフランスで描かれたことが明白となっている。ゆえに技法材料的には前年度とほぼ同様の描き方が観察されて、同じ工房制作であることをうかがわせた。建設当時、制作を予定されていた東京美術学校の教員についてはあらたな関与の資料が見つからず、日本人画家の関与がうすかったことを強く示唆した。修復の二次災害についても、前年度と同様、旧修復材料と同様の材料を強制劣化によって、耐久性の乏しい修復材料を確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの現地調査経過をふりかえると、迎賓館側の全面的な協力のもと、スムースな現地調査が継続された。時に突然の接遇によって日程変更もたびたびではあったにもかかわらず、その度ごとに迎賓館側の配慮でその分を翌月に回すなどの工夫がとられて日程調整も滞ることなく調査を進行させることができ予定を上回る調査面積となった。また、絵画技法や絵具の分析についても各部屋ごとに順調に結果を出している。旧修復材料の特定も絵具微小試料片の採取とともに行い、保存された旧修復報告と比較するなど、進行は順調に進捗している。天井壁画の建築上の構造については、前年度ほぼ基本的な天井の構造を調査し終えているが、本年度分の部屋についても木摺を含めその構造はほぼ同様であることを確認した。環境調査に於いては、油根裏と室内とに温湿度計を設置し、その推移を定期的にデータを収集して、天井絵画に大きな影響を与える木摺の動きを把握した。時に、国賓接遇の際には、警備上取り外しも余儀なくされて、断片的な時期もある。しかし、できうる限り継続に努めている。 作品の由来では、前々年度から前年度にかけて詳細な調査が行われてフランス、日本側と別途調査が行われて、これまで不明とされてきた由来が、大部分がフランスの工房で作られたことを新資料発見によって明らかにし、その大きな目的を達成している。しかし、さらなる明確な資料を求めて調査は現在も継続されている。 以上の研究成果は、平成25年に、まず、修復学会大会に発表した。さらに、大学が発行する紀要にも、外部査読を経て受理され、平成26年に発行が予定されている。また、本プロジェクトに参加している研究協力者による建築学会大会の口頭発表も行った。また、研究代表者である木島においても、本学内の招待講演で研究成果を発表するなど、積極的に成果発表の公開に努めている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度が、本プロジェクトの最終年度となるため、この4年間の総括を念頭に置きながら本年度は計画的に推進しなければならない。本研究課題はほぼ順調に進捗しており、環境調査である天井絵画の構造や温湿度環境についても予定の目的を達成している。美術史的な天井絵画の由来についてもその多くをフランスの工房が制作されたことがわかり、残された課題は日本人画家の係わりであるが、新資料を求めて宮内庁資料調査も継続する予定である。 これまで現地調査に軸足を置きながら調査研究を行ってきたが、今年12月をもって現地調査を終了させ、残り期間を全体の総括と資料整理に当てる予定である。12月までの調査は天井の構造調査を除いて基本的にこれまでと変わらず、光学調査の継続と、保存科学的な側面から絵画材料、旧修復材料のアプローチを行うとともに、絵画技法材料の面から制作手法を、美術史の観点から日本人画家の関与を調査する。 これまでの調査によって、得られた情報は、現在行われ始めた天井絵画全体の修復事業に多大に貢献しており、天井絵画修復10年計画も立案されて、本プロジェクトの研究課題名が示すとおり、修復事業の道筋をあたえたといって良い。本プロジェクトのもう一つの課題である旧修復の二次災害でも大きな反省材料として貢献し、引きつづき本年も情報提供を継続させる。 調査研究の成果発表であるが、各学会大会での発表、大学が発行する紀要への掲載、積極的な講演活動に努める。
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Research Products
(6 results)