2012 Fiscal Year Annual Research Report
ストリート・ウィズダムと新しいローカリティの創発に関する人類学的研究
Project/Area Number |
23242056
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Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
関根 康正 関西学院大学, 社会学部, 教授 (40108197)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | ストリート / 移民 / トランスナショナリズム / 新たなローカリティ / 共同性 / アンダークラス / 宗教空間 / 周辺化 |
Research Abstract |
関根は、ロンドンの南アジア移民社会の中でもダブル・マイグレーションの経験者であるグジャラート系ヒンドゥー教徒を対象に、寺院建設活動をめぐって継続調査を行った。北西ロンドン郊外の新寺院を中心対象に観察記録し、その寺院の司祭、管理委員会の委員長などにインタビューを重ねた。また、宗教空間をめぐる多様な世代の見方を収集できた。そこには、英国社会の移民という周辺化される人々の主流社会への同化と異化という現実が映し出され、英国社会の側の移民政策と、移民側のアイデンティティ希求とのネゴシエーションの複雑な過程が見出される。関根はまた日本国内の南アジア移民社会の生活状況に「分散型集住」ないし「見えない集住」というメディア革命以降の人々のネットワーク的つながり方を発見している。同じ構造が、新大久保のコリアタウンの急激な形成の中にも認められる。それは、ヴァーチャルな共同性のあり方と直接対面空間(祭礼・寺院・食堂など)の組み合わせによる新たな共同性(トランスナショナル・ローカリティ)の素形を考える事例を提供しており、英国の事例とも接点がある。鈴木のスリランカでの異宗教の超え方の調査もこの点に合流する。Sarah Teasleyによる、日本の地方の家具生産の歴史的調査は、デザイン史の見地からトランスナショナル・ローカリティの生成に示唆が多い。他方、S. Subbiahとともに関根が取り組んでいるインド大都市のストリートの縁辺状況の研究と日本のホームレスの居場所の現実には、一見の相違を超えて、グローバル資本主義経済システムの下で、アンダークラスの人々の仮説的な暮らしの創造という酷薄な事態へのぎりぎりの取り組みが見える。そのような事態は、災害によって周辺化され社会的救済対象になった者の現実でもあることが、ギルや小田・村松の「日常的視点からの調査」から明らかにされた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本プロジェクト開始から二年目で関係研究者が全員一回または二回の現地調査を行うことができ、海外についても国内についても豊かな調査データの蓄積を重ねることができた。今後のより本格的な調査のしっかりした土台が据えられた。計画以上に進んでいる理由はふたつある。1)2012年度は、海外から緊密に本プロジェクトと連携をとっている二名の優秀な研究者を招請して日本での調査を行ってもらいながら興味深い意見交換をすることができた。具体的には、Sarah Teasleyの来日で、グローバルデザインヒストリーという概念とローカルなヘテロトピアデザインとの接合可能性が明確に見えてきた。また、インドでの共同研究者S. Subbiahの来日で、改めて密な討論ができ、ストリート・ウィズダムの諸特徴の解明にかなり明確な見通しがたってきた。2)本プロジェクトの支持研究会として国立民族学博物館での共同研究会を組んでいるが、それが極めて有効に各自の調査報告と討議の機会になっていて、研究が大いに促進・深化してきている。特に本プロジェクトの企画以降に起こった東北大震災による社会破壊とその再建過程を同時代的に観察する調査研究が大きな成果をつみあげて、予想を超えてストリート人類学の視野の拡大に貢献している。
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Strategy for Future Research Activity |
本プロジェクトは残り3ヵ年であるが、関係研究者はさらに国内外のそれぞれの調査地での現地調査を深化させ詳細なデータ収集に励み、ネオリベラリスト資本主義の席巻する中で、ますます先行き不透明な現代社会の混迷状況(国内の大震災以降の再建過程を阻む諸要因やグローバルシティに流入する下層移民の直面する困難)はトランスナショナルな共通問題状況であり、ますます「ストリート・ウィズダムと新たなローカリティの創発」に関する国内状況と海外状況をつなぐ形での独創的な成果が求められていると確信を深めている。そのために、国立民族学博物館での共同研究会やその他の個別討論の機会も増やしていき、相互に成果の共有と統合を最終年に向けて確実に進めていく予定である。また、本プロジェクトのもうひとつの狙いである、臨床心理学・精神医学と人類学との対話は2013年度以降の主要な課題に据えられている。
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Research Products
(10 results)