2012 Fiscal Year Annual Research Report
フラストレーションの強い新規量子スピン系における量子多体効果の解明
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23244072
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
田中 秀数 東京工業大学, 理工学研究科, 教授 (80188325)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小野 俊雄 大阪府立大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (40332639)
栗田 伸之 東京工業大学, 理工学研究科, 助教 (80566737)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 物性実験 / 磁性 / 低温物性 / 強磁場物性 / 強相関電子系 / 籠目格子反強磁性体 / 三角格子反強磁性体 |
Research Abstract |
スピン1/2の籠目格子反強磁性体Cs2Cu3SnF12の中性子非弾性散乱による磁気励起の測定は前年度まで低エネルギー部分が完了したが,今年度はその解析を様々な相互作用模型に基づいて重点的に行った。この系の磁気励起は基本的にスピン波理論で理解できるが,量子多体効果によって,磁気励起エネルギーに60%もの大きな負の量子再規格化が起こっていることが明確になった。この磁気励起の大きな負の量子再規格化は初めて観測された現象で,1次元反強磁性体でよく知られている正の量子再規格化とは正反対の現象で,その発見の意義は大きいと言える。また,基底状態がギャップをもつRb2Cu3SnF12のsinglet-triplet励起の測定を中性子非弾性散乱によってゼロ磁場と磁場中で行い,分散関係とギャップの磁場依存性の詳細を測定した。更に両物質の混晶系(Rb1-xCsx)2Cu3SnF12を作成し,磁気測定によってxの系統的変化による基底状態の変化を調べ,x~0.4で量子相転移が起こることを見出した。また,空間的に大きな異方性を持つ籠目格子反強磁性体Cs2Cu3CeF12の磁気測定と比熱測定を詳細に行い,強い反強磁性相互作用によって,強磁性(フェリ磁性)状態が誘起されることを見出した。 次にスピンの大きさが1/2三角格子反強磁性体Ba3CoSb2O9純良単結晶を作成し,強磁場磁化測定の実験から,磁化プラトーを含む量子磁化過程の詳細を測定し,Ba3CoSb2O9については飽和までの全磁化過程を観測し,高精度の理論計算と定量的に見事に一致することを示した。また,強磁場ESRを行い,集団励起を測定し,その解析から磁気パラメーターを高精度で決定した。更に,同種の結晶構造を有するBa3CoNb2O9等の焼結試料を作成し,低温磁気測定と強磁場磁化過程によって相転移を調べた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
S=1/2の籠目格子反強磁性体Cs2Cu3SnF12の磁気励起を中性子非弾性散乱で観測し,そのデータを様々なモデルで解析し,強いフラストレーションと量子効果のために,磁気励起エネルギーに大きな負の量子再規格化が起こることを確認した。また,基底状態がギャップをもつRb2Cu3SnF12のsinglet-triplet励起の測定を中性子非弾性散乱によって行い,分散関係とギャップの磁場依存性の詳細を測定し,その理論的解析に成功した。更に国際的な共同研究(NMRやμSR)にも発展している. スピンの大きさが1/2の三角格子反強磁性体Ba3CoSb2O9の純良単結晶育成に成功し,磁化過程の全容を測定し,磁化プラトーの他に,量子揺らぎに起因する新しい磁気相転移を発見した。更に,Ba3CoSb2O9の強磁場ESRを行い,集団励起を測定し,その解析から磁気パラメーターを高精度で決定した。以上の結果はBa3CoSb2O9が現在知られている中で最も理想的なS=1/2三角格子反強磁性体であることを示している。 これらの結果の一部は,国際会議での招待講演で発表し,論文としてまとめた(含む投稿中)。
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Strategy for Future Research Activity |
まず,基底状態の異なる籠目格子反強磁性体Cs2Cu3SnF12 (基底状態は秩序状態)とRb2Cu3SnF12 (基底状態はギャップをもつ非磁性状態)の混晶系(Rb1-xCsx)2Cu3SnF12における,xの系統的変化による基底状態の相図を完成し,量子相転移を詳細に調べる。更に,混晶系の磁気励起を中性子非弾性散乱で詳細に調べ,その結果の解析を理論家の協力を得て行う。また,Cs2Cu3SnF12とRb2Cu3SnF12の高エネルギーの励起を詳しく調べ,理論的に予言されているスピン励起の分数化の検証を含めた磁気励起の全容を解明する。 三角格子反強磁性体Ba3CoSb2O9とBa3NiSb2O9の大型単結晶を育成し,中性子非弾性散乱実験によって磁気励起を詳細に調べ,理論的に予言されている磁気励起の大きな量子効果(励起エネルギーの負の量子再規格化や分散関係に現れるロトンのような異常等)を検証する。また,Ba3CoNb2O9やBa3NiNb2O9等の新しい三角格子反強磁性体の単結晶を育成し,詳細な磁気測定を行い,その量子効果の発現を捉える。 量子効果が顕著な新規なスピン系を開拓し,量子磁性の新展開を切り開く。
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Research Products
(7 results)