2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
23248053
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Research Institution | Utsunomiya University |
Principal Investigator |
杉田 昭栄 宇都宮大学, 農学部, 教授 (50154472)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
前田 勇 宇都宮大学, 農学部, 准教授 (10252701)
蕪山 由己人 宇都宮大学, 農学部, 教授 (20285042)
加藤 和弘 東京大学, 農学生命科学研究科, 准教授 (60242161)
青山 真人 宇都宮大学, 農学部, 准教授 (90282384)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | カラス / 寄生虫 / 飛翔 / GPSロガー / 保有菌 / 鳥マラリア / 腸内細菌 |
Research Abstract |
GPS data loggerをハシブトガラスに装着し放鳥後、再捕獲した92羽について行動記録を収集した。血液検査の結果、5月上旬から11月上旬にかけて、ほぼすべてのハシブトガラスがHaemoproteus原虫を持ち原虫の遺伝子型はI、IVおよびIX型の3つに分けられた。感染したカラスのうち、時速30 km以上を記録した飛翔速度頻度の割合を各遺伝子型の原虫別に比較したところ、遺伝子型IVおよびIX型のHaemoproteus原虫に感染していた個体では、全個体の頻度割合よりも有意に低い値を示した。以上から、遺伝子型IVおよびIXのHaemoproteus原虫の感染が、ハシブトガラスの飛翔能力に負の影響を与えている可能性が示唆された。 ハシブトガラスは、残飯を好んで食糧とするためヒトの居住地と生息環境が重複する。したがって、公衆衛生学的見地からハシブトガラスの腸内細菌叢を特徴づけることは意義がある。3羽のハシブトガラスの綱から属レベルまで腸内細菌叢が明らかにされた。3羽のカラスに共通して最も豊富に見出されたDNA塩基配列は、綱ではAlphaproteobacteria、Epsilonproteobacteria、Clostridia、Bacilli由来のもの、そして科ではCaulobacteraceae、Bradyrhizobiaceae、Streptococcaceae、Helicobacteraceae、Leuconostocaceae由来のものであった。告されている原虫系統と近縁であった。 原虫に感染していたGPS装着2個体の移動記録を解析したところ、これら2個体はいずれも複数のねぐらを移動し、牧場周辺や公園など、家畜や野鳥が生息する環境に頻繁に飛来していたことが明らかになった。よって、原虫感染カラスの移動により、他個体・他鳥種へ原虫を伝播する可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画した、飛翔行動についても、データロガーの回収率があがり、すでに30数羽のカラスの飛翔を追跡できている。概ね30km範囲で飛翔していること、環境によるが60kmも1日で飛翔する例も得られるなど収穫は多かった。また、筋の解析においても生化学的分析法の取り組みがスタートできたばかりでなく、筋の種や性質についても手がかりが得られた。この分野は、GPSデータの生理的裏付けになるもので、それへの着手は今後の展開に重要である。寄生虫の大まかな種類は分かった。また、寄生虫保有に季節変動があることも分かった。さらに、腸内細菌相についても、メタゲノム解析により、概略的な菌叢の把握ができた。本プロジェクトの幾つかの要素をそれぞれに評価して、平均すると目標達成度は70%と考える。
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Strategy for Future Research Activity |
ハシブトガラスの行動については2年間の研究を経て、既に半径30km以上の広域を飛翔することが確認され、一方腸内において腸内細菌だけでなく土壌細菌などを保有していることが分かってきた。また血液に関しても夏季には高率でカラスが住血原虫に感染していることが分かり、獣医公衆衛生学的にみて感染症の拡散に関わっている様子が具体的に明らかになってきている。 しかし、カラスのロガーを用いた行動研究については各測位情報の間隙が15分間であるために、カラスの詳細な飛翔行動を観察できていない。また具体的な採餌行動の頻度、必須栄養素の種類や量、広域な行動をもたらせる飛翔能力に必要なエネルギー量などの具体的な定量ができていない。そこで、平成25年度において、GPSデータロガーについては、測位間隔を15分から1秒に短縮して、カラスの飛翔方向や速度、移動の頻度などを数値化していく。これらの数値から飛翔に関わる胸筋などへの負荷を算出して、飛翔に必要なエネルギー量を推量して、分子レベルでの分析による筋肉構造、細胞の特性との相関を明らかにしていく。また、GPSデータロガーだけでなく、加速度ロガーやビデオロガーを利用して飛翔の羽ばたき回数や体の傾き、採餌の種類、頻度などを数値化し、飛翔における翼の機能性、餌に含まれる栄養素についても研究を進める。また現時点ではハシブトガラスのみであり、国内において広くみられるハシボソガラスについての知見は、箱罠による捕獲が困難であるために充分に進められていない。今年度は、銃器や網など多様な捕獲方法を駆使してハシブトガラス同様にハシボソガラスについても研究を進めていく。 今後、カラス個体群が保有する原虫系統の構成を地域間で比較することにより、保有原体からカラスの交雑など移動があるのかなどの検証に値するデータを取る必要がある。
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Research Products
(8 results)