2011 Fiscal Year Annual Research Report
古代パルミラの葬制の変化と社会的背景にかかわる総合的研究
Project/Area Number |
23251018
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (A)
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Section | 海外学術 |
Research Institution | Kashihara Archaeological Institute , Nara prefecture |
Principal Investigator |
西藤 清秀 奈良県立橿原考古学研究所, その他部局等, 副所長 (80250372)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
青柳 泰介 奈良県立橿原考古学研究所, その他部局等, 研究員 (60270774)
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Keywords | パルミラ / 葬制 / 葬送用彫像 / 復顔 |
Research Abstract |
調査を実施している家屋墓は、パルミラ博物館の西約100m、パルミラ都市遺跡の北側に接する北墓地に所在するNo.129-bと呼ばれる有力氏族の墓である。しかし、今年度の考古学調査はアラブ圏内で吹き荒れる「アラブの春」の影響を大きく受け、当然、シリアもその例にもれず、外務省から退避勧告が出され、昨年度までのように発掘調査を実施し得ない状況であった。ほとんどの調査隊は、シリアに向かえない状況になった。その中でパルミラの調査隊は、一人西藤だけがパルミラに赴き、パルミラ葬制研究に大きく寄与する棺に嵌めこまれた胸像とその棺から出土した頭骨の復顔による顔の比較研究のために東南墓地の地下墓であるC号墓出土した頭骨2点(YRHYとR4-2)をシリア考古総局の許可を得て日本へ運び、また129-b家屋墓覆屋内基壇内部に設置した温湿度を計測するデータロガを外し、日本へ持ち帰った。また現地では129-b家屋墓の覆屋の屋根トタン板の張り替え、フェンスの改修をおこなった。 シリアから持ち帰った2点の頭骨は、復顔用のコピーを作成するための3次元計測を実施した。そしてそれらの頭骨コピーを基にモスクワに所在するRussian Academy of Science, Institute of Ethnology and Anthropologyと日本の2か所で同じ頭骨2点の復顔を実施した。 また温湿度計測についてはそのデータ解析をおこない、石材劣化の原因の追究に努めている。また、2003-2005年に調査を実施した東南墓地に所在する地下墓のH号墓の葬送用彫像の三次元画像の画像処理をおこない。さらに2012年度に現地調査が無理な場合を鑑み、葬送用彫像を作製した石工や工房の同定を三次元計測からおこなうための、彫像顔面の計測基軸の設定等をおこなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2011年度は、シリアでの民主化運動のために現地での調査ができず、現地調査が全く停滞した。まだ一年の遅れであるのでやや遅れているとしたが、その先行きは見えない。この研究は、パルミラの葬制の変化とその社会を考えることに主題を置き、この先現地での発掘調査が、2011年度を含め、2015年度に現地調査を完結する計画を立てていたが、シリアの国情により何年現地調査ができないかが大きな問題であるが常に現地調査に赴くための準備は怠らないつもりである。しかし現地調査ができない可能性も考えなければならい。そのためパルミラの葬制を考える上で重要な役割を果たす葬送用彫像に現在目を向け、今年度は当初から研究目的に挙げていた棺にはめ込まれていた彫像の顔とその棺から検出された頭骨より復顔した顔の比較をおこない、彫像が被葬者に似せて制作されているのか否かの検証を実際おこなった。これにより、パルミラの葬送用彫像が死者に似せた肖像であり、オーダーメイドで制作されたと言える。これは、パルミラ葬制研究と彫像研究に大きく寄与し、ギリシャ・ローマの彫像研究にも大きく影響を与えると思われる。総合研究の一部は達成できたと考えている。さらに3次元計測システムを活用し、葬送用彫像の持つ問題点を究明したいと考えている。この彫像を調査研究することにより、我々が研究主題とするパルミラの葬制の変化と社会の一部を見つめることができると考えている。我々の研究の基本は現地での調査にあることに変わりはなく、一日でも早いシリアの平穏を願っている。
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Strategy for Future Research Activity |
パルミラの葬制の変化とその社会を考えることに主題を置き、現地での発掘調査を実施してきたが、2012年度以降、シリアの国情により何年も現地調査ができなくなる可能性は高いが、我々は常に現地調査に赴くための準備は怠らないつもりである。そのため、研究目的である「パルミラの葬制を総合的研究」において非常に重要な役割果たす葬送用彫像に焦点を当て、葬送用彫像を作製した石工や工房の同定をおこないたと考えている。パルミラ人が墓を建造し、遺体を埋葬する際に葬送用彫像を棺小口に彫像をはめ込むが、その彫像はどの工房で、どのような工人によって制作されたかを突き詰めたい。そのために三次元レーザ計測をおこなう。今年度、以前に計測した東南墓地H号墓出土の葬送用彫像を利用し、彫像顔面の計測基軸の設定をおこない。その後、1900年代の前半に海外に持ち出された多くのパルミラ葬送用彫像が、世界の博物館・美術館に所蔵されており、それらを3次元計測し、研究することにより、パルミラの葬制での彫像の役割と古代パルミラ社会の遺体や墓に対する意識を追究できると考えている。この彫像を調査研究することにより、我々が研究主題とするパルミラの葬制の変化と社会の一部を見つめることができると考えている。しかし、我々の研究の基本は現地での調査にあることに変わりはない。
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Research Products
(12 results)