Research Abstract |
本研究は,中国で実施されるバネル調査に参加し,そこから得られるミクロデータに基づき,労働移動に関するルイス転換点,所得分配に関するクズネッツ転換点を検討し,それらが中国経済と国際経済に与える影響を分析することを目的としている。平成23年度に関しては,研究実施計画に基づいて以下の成果を得た。まず,北京師範大学・李実教授との交渉を通じて,中国の代表的な世帯所得調査CHIP(2007,2008年)を購入し,まだ具体的な結果を得るには至っていないが,今後の研究のための整理ができた。その過程で,中国社会科学院・〓曲恒氏を招聘し,データの詳しい情報を得ると共に,共同研究の打合せをおこなった。また,海外と国内での研究会の開催,参加を積極的に実施した。具体的には,北京師範大学で開催された所得不平等と経済発展の会議へ参加し,研究会での報告,海外協力者との研究方針に関する議論をおこなった。また,名古屋大学で随時研究会を開催し,南亮進・一橋大学名誉教授,ユーストン・カー南洋理工大学教授,櫻井宏明・在タイ日本大使館一等書記官,牧野文夫・法政大学教授らを招き,アジア諸国の所得格差と転換点について報告していただいた。これらの研究会での議論を通じて,中国における所得格差と転換点に関する最新の成果に接することができ,集計(マクロ)データを利用して転換点を検証する研究は近年でも見られるが,多くの研究は世帯・個人(ミクロ)データにもとづき,新たな検証法を見出そうとしていることを確認した。さらに,継続中の研究成果をまとめ,英語版,中国語版の書籍を出版できた。そこでは,独自の世帯調査を利用した11か国の事例研究により,各国における所得不平等の現状,その原因と経済的・社会的帰結を説明し,所得格差は高い経済成長の原動力となるのか,社会的発展の障害となるのかなどについて検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度の研究実施計画のとおり,2007年と2008年についてCHIPデータを入手でき,北京師範大学の李実教授が中心となるグループから,新規に中国で実施される世帯調査への参加許可を得ることもできた。また,ルイス転換点とクズネッツ転換点が中国経済と国際経済に与える影響を分析するために,国内分担者,海外協力者は,研究会で議論した方針にしたがい,各自の課題に取り組めている。
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Strategy for Future Research Activity |
中国の世帯所得調査の最新データを入手および整理し,転換点に関連する分析を中心に進める。インドの世帯所得調査については,予算の都合によりデータ購入に切り替える。また,必要に応じてタイなど他国のデータを入手して分析を補完する。さらに,適切な時期にワークショップや国際会議を開き,国内分担者・海外協力者との連携を密接にとりつつ研究を進める。
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