2011 Fiscal Year Annual Research Report
抗がん剤およびがん分子標的薬に対する治療抵抗性および薬剤反応性の分子機構
Project/Area Number |
23300364
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (B)
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
杉本 芳一 慶應義塾大学, 薬学部, 教授 (10179161)
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Keywords | ABC transporter / ABCB1 / ABCG2 / ABCB5 / P-糖タンパク質 / BCRP / SNP |
Research Abstract |
[研究1]ABCB5の全長cDNAを導入した293細胞(293/B5)は、パクリタキセル、ドセタキセル、ドキソルビシンに耐性を示した。293/B5細胞の抗がん剤耐性がABCB5の発現に依存することを、siRNA導入およびrevertantを用いた実験で確認した。また、293/B5細胞ではパクリタキセル、ドセタキセルの細胞内取り込みが低下していた。バキュロウイルス発現系を用いて昆虫細胞Sf21にABCB5を高発現させたSf21/ABCB5の細胞膜ベシクルは、vanadate感受性のATPase活性を持ち、その活性はSf21/P-gpと同程度であった。Sf21/ABCB5のATPase活性が100μMのドセタキセルの添加により上昇したことから、ドセタキセルがABCB5に結合する基質であることが明らかになった。これらの結果より、ABCB5がドセタキセルなどを基質とする抗がん剤排出ポンプであるということが示された。[研究2]BCRP阻害薬として開発中のアクリロニトリル化合物は、BCRP遺伝子を導入したヒト大腸がん細胞のマウス移植モデルにおいて、イリノテカンの効果を増強した。この結果より、BCRP阻害薬とイリノテカンの併用によりBCRPを発現する耐性がんを治療できる可能性が示された。[研究3]ヒト大腸がん細胞SW620よりP-gpの高発現株、中程度発現株、低発現株を樹立し、Agilent社のマイクロアレイを用いてP-gp発現と相関する遺伝子を抽出した。これらのうち転写関連遺伝子、シグナル伝達関連遺伝子のsiRNAを細胞に導入するスクリーニングを行い、GC-boxに結合する転写因子であるKLF9(Kruppe1-like factor9)、チロシンキナーゼ受容体の補助受容体のNRP1(neuropilin1)ホメオボックス転写因子のDLX3(distal-less homeobox3)の3遺伝子のそれぞれのsiRNAが、P-gpの発現を変動させることを見出した。これらの遺伝子は、P-gpの発現に影響を与える遺伝子であることから、これらの遺伝子の発現そのものががん細胞の抗がん剤感受性に影響を与えると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度は、ABCB5の抗がん剤耐性およびトランスポーター活性に関する研究と、トランスポーターの阻害薬に関する研究に大きな進展があった。また、トランスポーターの発現に影響を与える新規遺伝子を見出した。これらの成果は、トランスポーターの制御による難治がん・再発がんに対する治療戦略の構築に寄与すると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、平成24年度以降も当初の計画に従って進められる。これに加えて、本研究をさらに発展させて当初の目的を達成するために、平成23年度より、新たに以下の2つの研究を開始している。これらの研究を平成24年度以降に精力的に進める。(1)シグナル伝達系阻害薬によるトランスポーターの発現制御に関する研究。これまではトランスポーターの発現制御についてはsiRNAを用いた研究が中心であったが、今後はシグナル伝達系の低分子阻害薬を用いることにより、本研究の抗がん剤耐性制御法としての実用化を目指す。(2)ABCB5発現細胞ののメタボローム解析に関する研究。これにより、ABCB5の基質の網羅的解析を行い、ABCB5の生理機能の解明に役立てる。
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