2012 Fiscal Year Annual Research Report
チェルノブイリシミュレーション実験による多世代低線量率慢性内部被曝の子孫への影響
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23310037
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
中島 裕夫 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (20237275)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
斎藤 直 大阪大学, 学内共同利用施設等, 教授 (50153812)
本行 忠志 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (90271569)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | チェルノブイリ原発事故 / 福島原発事故 / 低線量・低線量率放射線影響 / セシウム137 / 内部被ばく影響 / 遺伝的影響 / 継世代的影響 / メタボローム |
Research Abstract |
チェルノブイリ原発事故以来、低レベル放射能汚染地域に生活するヒトの放射線による遺伝的影響が懸念されている。しかし、継世代的な影響が顕性化するには数世代の世代交代が必要であり、ヒトでは百年以上の時間経過が必要である。そこで、世代交代の速い近交系マウスに飲料水として100 Bq/mlのセシウム-137水を給水して多世代にわたり飼育することで、チェルノブイリ近郊と同じようなセシウム137汚染環境を実験室内で再現し、子孫マウスでの発がん性や生理的影響、遺伝的影響を検討して、ヒトへの影響を推測することとした。同時にこの研究は、東日本大震災による福島第1原発事故後影響の予測にも資することができる。 昨年度までの実験においてセシウム-137水群と対照群の双方とも13代以上の世代交代に成功した。その10世代目のマウスにおいて、発がんへの影響を調べるために、両群の出生後4週目のマウスに、発がん物質であるUrethane (A/J において肺がん誘発)を単回皮下投与し、4ヶ月後、8ヶ月後に肺を剥出、ホルマリン固定を行った。この肺腫瘍を解析することで腫瘍の発生頻度と増殖速度を定量することができる。 また、10世代目における骨髄細胞の相互転座型の染色体異常をマルチカラーFISH法で調べた。その結果、10代まででは、全ての細胞に共通な相互転座型染色体異常は認められなかった。さらに、生理代謝への影響の有無を調べるためにセシウム-137水給水群の第5世代目、第11世代目、対照群の第11世代目の凍結肝臓組織を用いてメタボローム解析、ならびに遺伝子変異の検出を目的として第10世代目のセシウム-137水給水群、対照群それぞれのマウスの凍結肝臓組織よりDNAを抽出して解析を開始した。現在までに、メタボローム解析において、セシウム-137水給水群で糖代謝、酸化的ストレスの上昇を示唆する結果が得られている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までの達成度は、動物実験施設の感染事故対策による施設内クリーンナップ作業のためにRI施設で飼育しているセシウム水給水群の達成世代数に対して動物施設飼育の対照群の達成世代数で3世代の遅れが出てしまった。しかし、遅ればせながら、当初の目的であった10世代目での染色体異常、生理的影響、遺伝的影響の解析実験が本年度末にスタートできており、最終年度での解析計画に支障はなく、実験はおおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度までの実験においてRI施設内でセシウム-137水(100Bq/ml)給水群と通常飼育の対照群の双方とも13世代以上の世代交代をさせることに成功した。今後その世代数をさらに20世代まで伸ばす予定である。 本年度に10世代目のマウス出生後4週目に、発がん物質であるUrethane (A/J において肺がん誘発)を単回皮下投与し、4ヶ月後、8ヶ月後に肺を剥出、ホルマリン固定を行っている。次年度は、この誘発された肺腫瘍の数とそれぞれの腫瘍長径、短径を計測する(おおむねマウスあたり50個の肺腫瘍が発生する)。この計測値を比較することで腫瘍の発生頻度と増殖速度を定量する。 また、慢性的低線量内部被曝による生理代謝への影響の有無を調べるためにセシウム-137水給水群、セシウム給水停止後3か月群(真水給水)、対照群のそれぞれの心臓ならびに肝臓組織を用いてメタボローム解析を行い、影響を受けている代謝系の同定を行うとともに、昨今、チェルノブイリの小児や放射線治療の副作用の一つとして問題となっている放射線被曝と循環器疾患との関連性についても検討する。 さらに、一塩基多型遺伝子変異の検出と解析を目的として第10世代目の2群(0, 100Bq/ml給水)それぞれのマウスの凍結肝臓組織よりDNAを抽出し、出来る限り多くの塩基配列を調べて、変異量の差を比較する。もし変異が見つかれば、世代を遡り当該変異の発生時期を調べる。この実験により世代ごとの生殖細胞に発生する遺伝子変異の頻度と世代累積遺伝子変異を検出することが期待できる。本来、遺伝子のコーディング領域に突然変異が生じると多くの場合では次世代が得られない。しかし、非コーディング領域での変異は保存され次世代へ遺伝し、世代ごとに蓄積していくことが予想される。この結果は、放射線影響のみではなく進化に関係する遺伝子変異をも検討できる可能性がある。
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Research Products
(5 results)