2012 Fiscal Year Annual Research Report
焼畑の技術と知恵を活かした日本の森づくりに資する実践的地域研究
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23310179
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Research Institution | Kyoto Gakuen University |
Principal Investigator |
鈴木 玲治 京都学園大学, バイオ環境学部, 准教授 (60378825)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
黒田 末寿 滋賀県立大学, 人間文化学部, 教授 (80153419)
野間 直彦 滋賀県立大学, 環境科学部, 准教授 (80305557)
島上 宗子 総合地球環境学研究所, 大学共同利用機関等の部局等, 研究員 (90447988)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 環境学 / 土壌学 / 民俗学 / 生態学 / 在来知 / 地域活性化 |
Research Abstract |
今年度は、タニウツギ・エゴノキなどが優占する雑木林とススキ草地の2箇所に火入れをして焼畑を行った。草地では火がしっかりと入ったが、雑木林ではやや燃え方が弱かった。これは、伐採から火入れまでの期間(18日間)が長すぎたため、伐倒木の枝から葉が落ちきってしまったのが原因であった。火入れはやや弱かったものの、火入れ後には焼却灰からの養分添加効果に伴う交換性塩類・有効態リン酸の増加と、焼土効果に伴うアンモニウム態窒素の増加が表層土壌に認められた。火入れ時の地表面温度は250℃以上、深さ5cmでは45~126℃であり、深さ5cmの地温が70~80℃程度の地点でも十分な焼土効果が得られた。また、一昨年にササ優占地を伐採して焼畑を行った休閑2年目の地点では、先駆性の樹木や木本の萌芽再生個体が優占する林へと遷移しており、焼畑による林相転換の可能性が示唆された。 余呉町の焼畑で栽培した山カブラと実験的に京都府亀岡市の常畑で栽培した山カブラを比較すると、前者は後者に比べ肉食の赤みが強く破断応力が高かった。赤色の原因となるアントシアニンは気温が低下することで増加するため、気温の低い余呉町で栽培された山カブラの方が赤みが濃くなったものと思われる。また、施肥量が多いとカブラの肉質は柔らかくなることが知られているが、焼畑では施肥をしないため、前者の破断応力が高くなったものと思われる。なお、カブは焼畑でなければ本来の色、風味、食感などがでないとされ、焼畑での栽培を続ける農家が東北・北陸の日本海側を中心に今なお残っている。現在でも焼畑によるカブ栽培が営まれる山形県温海地区と新潟県山北地区でも現地調査を行い、前者ではカブのブランド化が、後者では火入れ・赤カブ漬けなどの体験会開催により、人手と参加費を同時に確保しながら外部者との交流を促進していることが、焼畑の存続に大きな役割を果たしていることが確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付申請書に記載した計画に沿って、順調な調査研究活動を展開中である。また、火入れや収穫などの焼畑体験会には、大学関係者・NPO・マスコミなど、多くの人々が参加し、余呉町の人々とも良好な関係を構築できている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、放置された里山を焼畑に切り開くことで森林再生を促し、山地での食糧生産を中山間地域の森づくりにつなげていくことを目指している。短期的には火入れの効果を活かした石油資源への依存度の低い持続的な食料生産、長期的には荒廃する中山間地域の森づくりと地域活性化に果たしうる焼畑の可能性を実証的に示し、地域の目指すべき森づくりの基本計画を構築する予定である。平成25年度は、平成24年度に実施した研究に加え、休閑地の植生回復を積極的に促すため、有用樹の植栽を試みる。また、カブは焼畑でなければ本来の色、風味、食感などがでないといわれるが、このことを定量的に確認するための実験を行い、焼畑によるカブ栽培の意義を評価する予定である。また、研究代表者らがこれまでに蓄積してきた焼畑研究の知識・経験や人的ネットワークを活かしながら、東南アジアと日本の焼畑を比較し、各々の地域に受け継がれてきた在来知の背景となる生態環境や社会・文化的環境の共通点や差異を検討する。これらの結果から、焼畑に受け継がれてきた様々な技術や知恵を、現代の日本の中山間地域の実情に応じた形で組み入れる手段を検討していく予定である。
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Research Products
(14 results)