2011 Fiscal Year Annual Research Report
ベルクソン『道徳と宗教の二源泉』の総合的研究-国際協働による西洋哲学研究の再構築
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23320007
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
安孫子 信 法政大学, 文学部, 教授 (70212537)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
金森 修 東京大学, 情報学環, 教授 (90192541)
合田 正人 明治大学, 文学部, 教授 (60170445)
檜垣 立哉 大阪大学, 人間科学研究科, 教授 (70242071)
杉村 靖彦 京都大学, 文学研究科, 准教授 (20303795)
藤田 尚志 九州産業大学, 国際文化学部, 講師 (80552207)
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Keywords | 思想史 / 哲学 / 倫理学 / 宗教学 / フランス思想 / 国際研究者交流 / ベルクソン / 『道徳と宗教の二源泉』 |
Research Abstract |
アンリ・ベルクソン(1859-1941)の最後の主著『道徳と宗教の二源泉』(1932)は、「進歩の重圧に半ば押しひしがれ呻く」現代文明下の人類を、20世紀のまだ初めにそれとして問題とした先駆的な著作であるが、この書の今日的意味を、国際協働の下で明るみにだそうという、3カ年に亘る本科研費課題研究の第1年目、平成23年度の研究は、3月の東日本大震災の勃発、地震と津波、さらにそれに続く福島原発事故という災禍の大発生と重なり合い、ベルクソンがまさにこの書で正面から問いかけた終末的な諸現象を、事実として目の前に置いてのものになった。この危機的状祝を直に受け止めて、本研究の本年度の活動の中心となった、10月の国際シンポジウムでは、「ベルクソンと災厄-今、『道徳と宗教の二源泉』を読み直す」をテーマとして選定し、7カ国からの15人の参加者を募って、大震災という「災厄」を強く意識した発表と討議とを、延べ1週間に亘って行った。シンポジウムの合間には、参加者は、震災被災地そのものの視察も行った。 シンポジウムで取り上げられた課題は大きくは3つに分けられる。 1.(『二源泉』の第1章)「閉じた社会」の自己保存を脅かす災厄の本質とは何であり、とくに「道徳」の名前でのそれへの対応が、どこまで有力・無力なものであるかが論じられた。 2.(『二源泉』の第2・3章)災厄への「閉じた社会」の対応が、「仮構機能」を用いる「静的宗教」によって、さらにまた、「神秘主義」へと踏み越えていく「動的宗教」によって、どのように為されうるのかが論じられた。 3.(『二源泉』の第4章)「機械化」が災厄とどうか関わるのか、それは災厄への対処の役割を果たしうるのか否か、また「神秘主義」の内容たる「記憶」の災厄との関わりについても論じられた。 それぞれの課題の検討を通じて『二源泉』がきわめてアクチュアルな書であることが、鮮明に示されていった。」
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
震災という外的出来事に押されてではあるが、当初の検討課題の核心部分に一気に踏み込むことができている。シンポジウムでは各会場で、研究者だけでなく、広く一般市民の参加も得ることができた。また、現代における『二源泉』の読解の可能性を国際レベルで示すにも至っていて、今回の国際シンポジウムの報告集(アクト)がフランスの出版社(PUF)から出版されることも、すでに決定している。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の活動をこの科研費研究のHPで発表することでは十分な対応がなされておらず、そのことに力を尽くす必要がある。 また、『二源泉』をまさに現下のアクチュアルな事態(大震災)と突き合わせた場合の、新たな可能性は示し得たが、『二源泉』のその新しさが、思想史の上でもさらに確認されていく必要がある。それは『二源泉』が、それに先立つ19世紀思想と突き合わされた場合にどう読まれうるのかの検討を通じて為されていくはずで、「『道徳宗教の二源泉』とフランス19世紀の思想」が、今後、次年度の主要な研究テーマになっていくだろう。
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