2014 Fiscal Year Annual Research Report
ヴァールブルク美学・文化科学の可能性――批判的継承から新たな創造へ
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23320028
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
伊藤 博明 埼玉大学, 教養学部, 教授 (70184679)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
田中 純 東京大学, 総合文化研究科, 教授 (10251331)
加藤 哲弘 関西学院大学, 文学部, 教授 (60152724)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | ヴァールブルク / ダイアグラム / アトラス / クラヴェル / イコノロジー / ベルティング / 図解福音書 / エンブレム |
Outline of Annual Research Achievements |
ヴァールブルクは、歴史家を過去からの波動を感受して記録する地震計に譬え、そのような地震計の波形図を思わせる小さく奇妙な抽象的ダイアグラムを、彼は研究ノートにいくつも書き残している。この主題について「ダイアグラムと発見の論理──アーカイヴに眠る「思考のイメージ」」と題する招待講演を2014年10月に、京都市立芸術大学芸術資源研究センターで行なった。「アトラス」の情念定型と結びつく「せむし」のイメージ系列と深く関わるジルベール・クラヴェルの小説草稿に見出される神話的想像力について、ヨーロッパ・アヴァンギャルド・モダニズム学会第4回国際大会(ヘルシンキ、2014年9月)において口頭発表を行なった。 ヴァールブルクが「フィレンツェの美術と文化」、「イコノロジー」、「ハンブルク大学と文化科学図書館」、「同時代への文化政治学的発言」に関して論じた講演や論文などを邦訳し、彼の業績を根幹で支えていた文化科学図書館についての解題を執筆した(『怪物から天球へ――講演・書簡・エッセイ』)。「イメージ学/イメージ科学」とヴァールブルクとの関係について、2015年3月に立命館大学アートリサーチセンターで開催されたシンポジウム「ノマドとしてのイメージ――ハンス・ベルティング『イメージ人類学』再考」において提題を行い、美術史研究の枠組みを越えた彼の「人類学的」なイメージ理解について議論した。 ヴァールブルクが関心を抱き続けていた、イメージの伝搬の問題について、15世紀後半にローマで刊行された図解福音書とその展開について考察し、日本のキリシタンン本の扉絵の関連を考究した。その成果は2014年8月にキールで開催された第11回国際エンブレム学会において発表した。 ロンドン大学のスティーヴン・クルーカス博士を招聘して、ルネサンス期のイメージとテクストに関するセミナーを埼玉大学・京都大学・広島大学にて行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究代表者・研究分担者ともに自らの課題について研究を続行し、その成果は海外での研究発表2件、および国内での招待講演2件や、計8本の論文において公表した。 アビ・ヴァールブルク著作集・別巻1として2013年に刊行した『ムネモシュネ・アトラス』に続いて、本年度は別巻2として、アビ・ヴァールブルク『怪物から天球へ――講演・書簡・エッセイ』(ありな書房)2014年10月を刊行した。これをもって、伊藤と加藤が監修したアビ・ヴァールブルク著作集7巻・別巻2刊は完結し、わが国における今後のヴァールブルク研究の礎石を築くことができた。 ロンドン大学バーベック・コレッジに所属し、ロンドン大学ウォーバーグ研究所とも関係の深いスティーヴン・クルーカス博士を招聘して、埼玉大学・京都大学・広島大学においてセミナーを開催して、今後の研究の可能性を探ることがことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
ヴァールブルクによる歴史の探究方法を思想史的に位置づけるため、フランク・アンカーシュミット、ハンス・ウルリッヒ・グンブレヒト、エルコ・ルニアなどの歴史理論を検討し、その成果を踏まえて、歴史家が過去の事象を探索し再構成するうえで遭遇する、情動をともなった「歴史経験」の特性を解明する。 「ムネモシュネ・アトラス」の解読、新作パネルによる拡張、パネル展示といった過去4年間の成果にもとづき、さらにジョルジュ・ディディ=ユベルマンによる浩瀚な「ムネモシュネ・アトラス」論の批判的な検討を加えて、「ムネモシュネ・アトラス」の構造に関する綜合的な考察をまとめる。 ベルティング、ブレーデカンプ、ベーム、W・J・T・ミッチェルらによって前世紀末頃から、とくにドイツ語圏で美術史研究に代わるものとして提起されている「イメージ学(Bildwissenschaft)」や「イメージ人類学(Bild-Anthropo logie)」に注目して、その有効性や射程を検証する。 1895年から96年にかけてヴァールブルクが行った北アメリカのプエブロ・インディアン居住地域における「イメージ」の調査とその成果について、そのような新たな視点のもとでの読みなおしを試みることで、これらの「イメージ学」とヴァールブルクの学・文化科学との直接的・間接的な関係を明らかにする。 2015年11月に海外からヴァールブルクの専門的な研究者を招聘して、研究代表者・分担者を中心に、本研究を総括するカンフェランス、および講演会を東京大学と京都大学で開催する。
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Research Products
(13 results)