2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
23320031
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
岡田 温司 京都大学, 人間・環境学研究科(研究院), 教授 (50177044)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
木俣 元一 名古屋大学, 文学研究科, 教授 (00195348)
金井 直 信州大学, 人文学部, 准教授 (10456494)
前川 修 神戸大学, その他の研究科, 教授 (20300254)
松原 知生 西南学院大学, 国際文化学部, 教授 (20412546)
篠原 資明 京都大学, 人間・環境学研究科(研究院), 教授 (60135499)
門林 岳史 関西大学, 文学部, 准教授 (60396835)
石田 美紀 新潟大学, 人文社会・教育科学系, 准教授 (70425007)
秋庭 史典 名古屋大学, 情報科学研究科, 准教授 (80252401)
阿部 成樹 中央大学, 文学部, 教授 (90270800)
喜多村 明里 兵庫教育大学, 学校教育研究科(研究院), 教授 (90294264)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 眼差し / 複製技術 / 光学 / 神経系美学 / 装置 / 展示空間 |
Research Abstract |
分担者の金井直が所属する信州大学で研究集会を持った。発表者とテーマは以下の通り。木俣元一「中世美術における幻視の表現」、前川修「写真と映画のなかの眼差し」。対象はそれぞれ、西洋の中世美術と現代の映画と懸け離れてはいるが、画面のフレームと幻視者の視線の関係や、超自然的なもの顕現の表象の手法など、いくつかの点で共通する手法が認められることが、それぞれの発表から浮かび上がってきた。また、分担者のみならず、京都大学大学院人・環の学生と信州大学の大学院生の間でも、積極的な議論が交わされた。 本年度はまた、代表者が、京都大学総合博物館で開催された「ウフィツィ・ヴァーチャル・ミュージアム」の特別監修を務めたことと連動して、国際シンポジウム「文化財・芸術作品の保存と科学技術」を、日本とイタリアから計5名の専門家を集めて、一般公開で開催した(3月10日)。代表者の岡田が司会をつとめた。200名以上の研究者・一般聴講者の参加があり、多くの質疑応答があり、関心の高さがうかがわれた。日本からはキトラ古墳と高松塚の壁画の高精細映像化と現状が報告され、イタリアからは、フィレンツェのウフィツィ美術館の作品の高精細映像化の実態とともに、ヨーロッパにおける文化財全般のデータ化の現状が報告された。さらに、こうした最先端の技術による作品の複製データ化が、現代においていかなる美学的な問題を提起しているかについて報告と活発な討議がおこなわれた。複製技術がますます進展を遂げるなか、芸術作品を見る目をめぐるテーマは、この複製技術をめぐる問題と切り離すことができないということが、改めて確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
年に3回程度、分担者と協力者が集まり研究会を定期的に持つことで、当初の計画は比較的順調に進んでいるといえる。これまで各年度にそれぞれ一回ずつ、海外の研究者を招聘して講演会、研究会を開催できたことも、本研究にとって大きな刺激となった。ひとつは、イタリアの高名な古典学者マウリツィオ・ベッティーニ氏によるもので、「ウェルトゥムヌス」という古代ローマに特有の変身の神をめぐるもの。ここでは、主体の眼差しを特権化してきた近代にたいして、他者の眼差しに重点をおいてきた古代のあり方が浮かび上がってきた。近代の個人主義的で主観主義的な「眼差し」を相対化する上で、重要な視座を与えてくれるものであった。もうひとつは、デジタル化によって複製技術が著しい発展を遂げている現代において、美術品や文化財の保存と、それを見る眼差しがいかに変容しているか、という問題をめぐって、内外の専門家と広く議論を交わす機会がもてたことが挙げられる。いまや、ベンヤミンがかつて予告したような、複製技術による芸術作品のオーラの喪失といった認識では、現状を把握することは困難になっている。むしろ逆の事態すら起こっていることが確認された。が、この問題については、さらに引き続き多方面からの学際的な検討が必要となるだろう。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はさらに以下のテーマについて考察を深めて行くことが求められる。 1、神話や文学における「目」と「眼差し」2、芸術論、美学思想、美術史学における「目」と「眼差し」3、光学的・視覚的装置と「眼差し」1に関しては、いまだ十分なアプローチがなされていない。ナルキッソスやメドゥーサ、オイディプスの神話等、「目」や「眼差し」がきわめて重要な役割を演じている神話は少なくない。さらに、文学作品において、そのような神話的原型がいかなる変容を遂げているか、そして、美術作品にもどのような影響を与えてきたかが、ここでの課題。2では、とりわけ19世紀末から20世紀初頭にかけて、美術史の方法論として前面に打ち出されてきた「純粋可視性」について、美学的で芸術学的な再検討がおこなわれる。この問題は、美術史の方法論ばかりではなく、抽象化や純粋化を志向してきたモダニズム美術そのもの動きと関連してくるだろう。3では、カメラ・オブスクーラに象徴されるような、視覚装置の形成・発展と「視の制度」(マーチン・ジェイ)との関係が問題となる。19世紀にはさらに、ステレオスコープ、タキストスコープ、プラクシノスコープ等、さまざまな光学装置が考案されたが、こうした装置によってもたらされる知覚の変容、その芸術への影響が問われるだろう。
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Research Products
(9 results)