2012 Fiscal Year Annual Research Report
プラハとダブリン、20世紀文学の二つのトポス―言語問題と神秘思想をめぐって
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23320070
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Research Institution | Tokyo Medical University |
Principal Investigator |
城 眞一 東京医科大学, 医学部, 教授 (60424602)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
平野 嘉彦 東京大学, その他部局等, 名誉教授 (50079109)
吉川 信 群馬大学, 教育学部, 教授 (70243615)
戸田 勉 山梨英和大学, 人間文化学部, 教授 (90217505)
川島 隆 滋賀大学, 経済学部, 特任講師 (10456808)
桃尾 美佳 専修大学, 経済学部, 准教授 (80445163)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | プラハ・ドイツ語文学 / アイルランド文学 / フリッツ・マウトナー / フランツ・カフカ / ジェイムズ・ジョイス / サミュエル・ベケット / 言語懐疑 / オカルティズム |
Research Abstract |
「プラハとダブリン」プロジェクトの通算6年度目、現研究プロジェクトの第2年度目の年にあたり、研究内容はいっそうの深まりと広がりを見たが、なかでも、「言語危機」の文学について、従来のドイツ文学史の枠組みを超えた新たな包括的視点から再解釈を提示し得たことが、最大の実績であろう。 前年度から企画されていた、日本独文学会秋季研究発表会におけるシンポジウム「プラハとダブリン ― 20世紀ヨーロッパ文学における二つのトポス(その2)フリッツ・マウトナーとその射程」が計画どおり実施された(10月14日、中央大)。このシンポジウムは、プラハとダブリンの外的・政治的言語問題が、カフカ、ジョイスらの内的言語危機に照応することを対比的に立証するとともに、言語学者フリッツ・マウトナーの言説を介在させることによって、カフカ、ジョイス、ベケットらの言語思想に共通して内在する「言語懐疑」の本質を浮き彫りにした。従来は伝記的事実等によって暗示されていたにすぎないプラハとダブリンの創造的な詩人たちの内面の共通性が、テクストに即した精確な読みの突き合わせによって初めて解き明かされたことは、大きな収穫といえる。同時にマウトナーの言語批判論が中世以来のノミナリズム論争に繋がることから、世紀転換期の「言語危機」の通時的連関も解明されることとなった。 1月末に開催された、ヴァイマル音楽大学のシュテフェン・ヘーネ教授連続講演会は、ドイツ語とチェコ語の2言語で3回に亘ってなされたが、とりわけ東京大学では、おもに冷戦下の東欧におけるカフカ受容の実態が報告され、耳目を引いた。多くの若手研究者ないしは院生が聴講したことで、今後の効果が期待される。 この年度では、研究例会の大半がシンポジウムの企画調整に使われたため、ケース・スタディとしての研究報告は僅かであった。この点を改善し、今後は多様な視点を不断に保持して、相互啓発に努めたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度の交付申請書に記載した「研究の目的」の昨年度分については、ほぼ達成し得た。また年次「研究実施計画」のすべてを無事、実施することができた。 内容的にも、「研究実績の概要」に言及したとおり、ドイツ文学史上、「言語危機の文学」とされていた現象について、それがドイツ語圏特有の世紀転換期の現象ではなく、同時代のアイルランド文学、とくにダブリン出身の詩人たちの言語意識に通底する問題を内包することを、伝記的事実とテクスト解釈の両面から、ほぼ立証できた。研究目的は高く設定していたが、われわれすなわちプラハ・ドイツ語文学研究者とダブリン文学研究者、加えてチェコ文学研究者による地道な、おそらくは内外の研究史上はじめて交わされる相互啓発的な対話があってはじめて、目的へと導かれたように思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
2013年度において、少なくとも1回のシンポジウム(ワークショップ)と2回の講演会を企画して、研究遂行の場としたい。 企画中のシンポジウムは、2012年度のシンポジウムと一対をなす内容の、神秘思想を主題とするものであって、研究の全体性を確保するためには必須の行事である。準備も順調に進捗している。 マウトナー関係の講演会においては、2012年度のマウトナー・シンポジウムには盛り込めなかった内容をその道の権威、2名の研究協力者にお願いし、同シンポジウムの内容を補完していただく予定である。 さらにゴルトシュニッグ教授には再訪を依頼し、最終年度の記念講演の実現を図っている。
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Research Products
(46 results)